さて、McLaren P1のハイブリッドシステムがKERSの技術を応用して開発された説明したが、大きく異なる点がある。まず、蓄電デバイスに大容量のリチウムイオン電池パックを搭載している点が挙げられる。
リチウムイオン電池パックは、54個の電池セルから成る電池モジュール6個から構成されている。電池セルの総数は324個だ。この電池パックを充電する方法は2つある。1つは、走行用モーターを発電機として用いる方法だ。スロットルを踏まない、いわゆるエンジンブレーキを掛ける場合には、その制動力で発電機を回転させて電力を生み出す。また、電池パックの容量が少なくなっている場合には、エンジンで発電機を回して充電することもできる。充電時間は極めて速く、10分間で満充電になるほどだ。エンジンを使っての充電は、走行中のみならず停車中も可能。停車中にチャージボタンを押して行う急速充電を「ピットレーン・チャージ機能」と呼んでおり、F1レースで作業時間の短さを争うピット作業を彷彿(ほうふつ)とさせる名称になている。
もう1つの方法は、外部電源を使った充電である。200V電源を用いれば、約2時間で満充電になるという。つまり、McLaren P1はプラグインハイブリッド車なのだ。ただし、モーターだけで走行するEV走行距離は11kmとそれほど長くは走れない。
リチウムイオン電池パックの冷却方法は水冷方式を採用している。日本の自動車メーカーの電気自動車やプラグインハイブリッド車は空冷方式を採用するものがほとんどだが、海外では水冷方式を採用する車両も多い。例えば、Tesla Motorsの電気自動車「Model S」も、水冷方式で電池パックを冷却している。
KERSとの違いでは、ブレーキシステムによる制動時のエネルギーを電力として回生していないことも挙げられる。トヨタ自動車の「プリウス」や日産自動車の「リーフ」をはじめ、ハイブリッド車や電気自動車では、燃費や電費を向上するため搭載が当たり前になっている機能だ。McLaren P1が採用しなかった理由は、「ハイパフォーマンス・ドライビングで重要なブレーキフィールを安定的なものにするため」(マクラーレン・オートモーティブ)だという。
このハイブリッドシステムとリチウムイオン電池パックにより、McLaren P1は2つの走行モードを選択することが可能になった。エンジンとモーターの両方を使うデフォルト設定の「IPAS(インスタント・パワー・アシスト・システム)モード」と、モーターだけで走行する「Eモード」である。
IPASモードでは、ハイブリッドシステムの最高出力673kW、最大トルク900Nmを使って、「ノーマル」、「トラック」、「スポーツ」、「レース」という4つの走行モードを楽しむことができる。さらに、ステアリングホイールの右側に設置されたブーストボタンを押せば、F1レースカーのKERSのように、モーターの出力とトルクを即座に上乗せすることができる。この他、発進加速時に最大限の性能を引き出すための「ローンチ・モード」も備えている。
一方、Eモードは、スーパーカーであるMcLaren P1には似つかわしくない、排気ガスも走行音も出さない走行モードである。満充電状態からの走行距離は市街地で11kmと短いものの、時速160km以上の最高速度で走行できる。充電容量が不足すれば自動でエンジンを始動してリチウムイオン電池パックへの充電を始める。このとき、走行フィーリングはモーターだけで走行している状態とほぼ変わらないという。Eモードへの切り替えは、IPASモードで走行中でも可能だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.