日立化成は、その名の通り、日立グループの一企業である化学メーカー。最近は、HPC(High Performance Computing)やクラウドコンピューティングの普及により、高性能サーバでよく使われる高多層配線板の需要が増大。同社は世界でも大きなシェアを占めているという。
同社子会社(日立にとっては孫会社)であるヒタチ・ケミカル・シンガポール(HCS)の歴史はデンカよりさらに古く、その設立は1972年。プリント配線板の生産拠点として立ち上がった。その当初はベドックを本社としたが、現在はロイヤンに移転している。同社は従業員745人のうち約5割がシンガポール人で、さらに5割はマレーシア人と中国人が半々ぐらいを占めている。その中では、「女性マネジャーも活躍し、ダイバーシティへの取り組みが進んでいる」と日立化成 執行役員電子部品事業部長兼シンガポール日立化成社長 中山肇氏は話す。
日立化成は、シンガポールの他に、台湾や中国にも現地子会社を持つ。日本と海外拠点で扱う技術はレベルによって分けている。
半導体パッケージのサブストレート基板およびモジュール、超高多層・高密度の配線板(74層マルチレイヤー配線板まで)などの「スーパーハイエンド」と呼ぶ製品は日本で生産。38層までの多層配線板など「ハイエンド」と呼ぶ製品をシンガポールで生産してきた。
HCSで生産する配線板の顧客は、70%が米国が占め、日本は25%、台湾・中国は5%。一方、出荷先は、中国やアジア諸国のEMSなどが8割近くを占めているとのこと。
ここで、英語が母国語であり中国語にも長けた人材であるシンガポール人従業員の能力が発揮され、優れた物流環境下においてダイレクトでスピード感のあるコミュニケーションが実現できているということだ。
今後は、BCP対応の観点で、HCSに日本のスーパーハイエンド製品の技術の一部を移管し、災害時などに備えたリスク分散を図る計画だ。同社で生産していた半導体検査装置用のヘッドは全世界のシェアの40%ほどを占めていたが、2011年3月の東日本大震災が起こり、その生産が1週間ほど止まってしまい、打撃を受けた。その経験を踏まえての取り組みだと中山氏は述べた。
シンガポール政府は技術者教育に多額を投資してきたことからも、国内の技術者のレベルは欧米や日本に引けを取らないほどだといわれる。多国語を話し、日本人が苦手とするロジカルな思考を持つ人材も多い。
一方、上記の両社ともに「シンガポールのデメリット」として指摘していたのが、ここのところのシンガポールにおける人件費や光熱費などの高騰だ。シンガポールは、国民1人当たりのGDPが今や日本を上回っており、経済成長が著しい国であるので当然の話だ。
例えば、中国の深センと比べると、製造業の従業員の人件費は3〜3.5倍程度であり、日本の半分程度。中間管理職については、日本の相場より若干少ない程度だ(日本貿易振興機構(ジェトロ)のデータに基づく:以下の図)。しかも、その額は年々上昇している。
また総人口も約541万人(2012年)と少なく、そもそも国土も小さく、人材の数は必然的に限られる。
そういうことから、シンガポール現地法人の運営においては、ロボットを活用し、ハイエンドな作業の一部を自動化することも1つのカギであるようだ。
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