電気化学工業(デンカ)と日立化成が語った、シンガポール拠点の利点や生かし方について紹介する。シンガポール経済開発庁の開催した記者説明会より。
シンガポール経済開発庁(EDB)は2013年8月6日、「シンガポールに進出する大手日系製造業の現状と展望」と題する記者発表会を開催した。ゲストスピーカーとして、電気化学工業(以下、デンカ)と日立化成が登場し、シンガポールにおけるビジネスの現状や今後について語った。“大手”企業の事例だが、中小企業にとっても参考になる部分があるだろう。
EDBは、シンガポールの経済戦略の立案や実施を担う政府機関であり、製造業や投資家の誘致・支援活動に携わる。「これまでの経験やノウハウを生かし、時代の変化に合わせた事業を行っていくことが大事。2社の発表を参考にして、われわれも今後、どういうサポートをすべきか考えたい」とEDB 副次官 リム・スウィニェン氏は述べた。
デンカは1915年に、カーバイドの製造で創業。当時カーバイドはアセチレンランプの燃料として使われていたが、その技術を応用することで、さまざまな事業を生み出してきた。創立100周年(2015年)が近い現在の同社は、「エラストマー・機能樹脂」「インフラ・無機材料」「電子・先端プロダクツ」「生活・環境プロダクツ」の4つの部門で成り立つ。
シンガポールへは、1980年にアセチレンブラックやポリスチレンなどを生産するデンカシンガポール(DSPL)を設立して進出。日本企業としては早い進出だった。そこでは、アセチレンブラックやポリスチレンなどを生産する。1989年にはデンカアドバンテック(DAPL)を設立し、溶融シリカやトゥアスプラントを生産してきた。現在はその2社をデンカケミカルズホールディングスアジアパシフィック(DCHA)が取りまとめている形だ。現在のDCHA全体の総売り上げが、5070万米ドルで、総従業員数は229人だという。
デンカの常務執行役員兼生活・環境プロダクツ部門長の松下三四郎氏は、「シンガポールは安全で、安心してビジネスができる都市」と語った。同氏は、シンガポール拠点の利点として、主に以下の4つを挙げている。
「生産設備さえ持ち込めば、必要なモノはそこに全てそろっている」といえるほどに、メリットが多い環境だという。
同社は、2013年7月4日にシンガポールの新工場の完工(同年7月2日)も発表している。年産能力は1万トン。そこで生産されるのは、同社の「トヨカロン」(PVC繊維)だ。
トヨカロンは、ナイジェリアやコンゴなどアフリカの国々で非常に需要が高いという。きついくせ毛を持つアフリカ女性は、ウィッグや編み込みでおしゃれをしてきた。しかし従来の方法では、人毛でできた高価なウィッグを買ったり、化学薬品を使用して無理にストレートにしたりと、心身ともにストレスも多かったようだ。トヨカロンは安価かつ高品質なウィッグが作れることから、その需要が高まっている。
アフリカのウィッグ市場は、さらに5〜10%の拡大が見込まれているそうだ。シンガポールの新工場と日本国内の大船工場(年産能力2万トン)とで、今後の需要拡大に対応していくとのことだ。
今後の同社は、シンガポール人従業員を日本に呼んで1〜2年ほど研修を受けてもらい、帰国後にはマネジャーとしてDCHAの企業を引っ張ってもらおうと考えているという。
また、このような海外拠点をより強化し、特に中近東やアフリカの需要拡大を見据えて事業拡大を目指すという。
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