今回、石狩データセンターが選ばれたのは、同センターを所有するさくらインターネットの協力があったからだった。
「彼らが北海道石狩市に国内最大級のデータセンターをオープンしたのが2011年11月のことです。なぜ石狩市が選ばれたかというと涼しいからです。データセンターは大量の熱が発生する一方で、20度前後に冷やしておかなければいけません。だからデータセンターの省エネといえば、空調の省エネになります。空調機とUPSがサーバと同じぐらい消費しているんです」
PUE(Power Usage Effectivenessの略)というデータセンターのエネルギー利用効率を示す指標がある。分母が「IT機器の総電力」、分子が「データセンター全体の消費電力」での割り算だ。データセンターはIT機器の電力のみで運行されることが理想なので、PUE=1を目指すことになる。しかし現実にはPUEは2〜3であり、倍以上の電力を消費している。 「主役のIT機器よりも空調やUPS設備の方が消費電力も大きく、電力ロスも大きいわけです。省エネデータセンターへの取り組みは活発に行われています。空調の能力を上げるために暖かい空気と冷たい空気を分けたり、ケーブルをきれいに整理して空気が流れるようにしたりといったことで省エネをしています。一方で石狩データセンターは外気空調システムを使い、消費電力の4割削減を実現しています。北海道は涼しいので、夏の一時期を除けば、空調の利用率を抑えることができるのです」
最初の1年はHVDCの本格的な導入の前に、実際の運用上の問題点を見つけたり、製品評価のために12VサーバとHVDCをコンテナに用意して、石狩データセンターで実績を作った。 「それで問題がないことが分かり、本格的な運用が始まったんですね」
またHVDC対応であれば、太陽電池や燃料電池も直流電流を発生させるため、そのまま電源として利用可能だ。
「今の太陽電池は、発電した電力を交流に変換して電力会社に売り、再び買って使う時に直流に変換しています。われわれの場合は直流の母線ができているので、そのまま太陽電池の電力を利用できます」
直流給電のニーズは広がっている。電気自動車の電流は直流だ。プラグインハイブリッドや電気自動車を家庭で給電する場合、交流を直流に変換して充電している。
「家庭にもいずれHVDCが入ると思いますが、まずはデータセンターだろうと考えました。今、世界中でデータセンターの需要は爆発的に増えていて、データ量も増えていきます。家庭の消費電力は1kw(キロワット)もありませんが、データセンターは1カ所で何千kwも消費しますから、1%の違いで大きく影響します。それだけ効果が大きいわけです。またプロが扱う施設ですから、運用で対処できる部分もある。将来的に家庭用にもつながっていけばいいと思いますが、私たちはデータセンターでニーズが広がっていくことを当面の目標にしています」
石狩データセンターでの運用を機に、世界のさまざまな企業からの引き合いも増え始めている。日本発の電力規格が新しい世界標準を生み出すのか? NTTデータ先端技術の活躍に期待したい。
村 文夫(むら ふみお)
NTTデータ先端技術株式会社
ソリューション事業部 グリーンコンサルティングビジネスユニット
HVDCグループ長
データセンターの省エネを目的とした、HVDC DC12Vサーバラックシステムの取り組みについて、内外に対して広く普及を推進する。環境ソリューションに特化した株式会社NTTデータ イーエックステクノを経て2009年より現職。「データセンターの環境志向経営」をテーマにNTTデータグループのRB(Relationship Builder)として情報発信の活動も行っている。
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