身近な生活空間にサービスロボットがやってきたら――。キッチンやリビングで、ロボットはどのようなサービスを提供してくれるのだろうか。ロボカップ@HOMEリーグの模様を通じ、サービスロボット開発の難しさを知った。
2013年5月4〜6日の3日間、玉川大学・玉川学園キャンパスで「ロボカップジャパンオープン2013東京」が開催された。
“ロボカップ”とは、「西暦2050年までに、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる自律型のロボットチームを作る」という大きな夢を掲げた、国際的なロボット競技会だ。当初、サッカー競技(ロボカップサッカー)だけを行っていたが、競技部門(リーグ)が拡大され、災害救助をテーマにした「ロボカップレスキュー」や、日常生活における人間とロボットの共存をテーマにした「ロボカップ@HOME(以下、@HOME)」なども実施されるようになった。
本稿で紹介する@HOMEリーグがスタートしたのは、2007年の世界大会からで、ロボカップの歴史の中では最も新しいリーグになる。日本国内でも年々参加チームが増えており、今大会ではタイや台湾からの参加も含め、過去最大の10チームが出場した。
@HOMEリーグの競技は、家庭内のキッチンやリビング、ベッドルームを模したフィールドで行われる。ロボットと人とのコミュニケーションや共同作業などを想定し、「Follow Me(人に追従して移動する)」「Clean Up(掃除)」「Cocktail Party(パーティー会場でのドリンクサービス)」といった課題にチャレンジする。
@HOMEリーグは、生活に身近なテーマを扱っているため、来場者にも人気がある。開催期間中、常に多くの観客がフィールドを見守っていたのだが、実際の競技の様子は、
というように、なかなか厳しい状況がうかがえた。
このような状況だったので、「いやー。わが家のロボットは、いろいろなサービスをしてくれて毎日が快適だなぁ」というロボットと暮らす生活は、“まだまだ遠い夢の話”ということがよく分かった。
ロボカップは競技形式を採用しているが、一般的なロボットコンテストのそれとは少し異なる。確かに、競技形式で評価されるコンテストとしての側面もあるのだが、どちらかというと“実環境の中で実証実験を行う”という意味合いが強い。さまざまな大学の研究室が一堂に会して、研究中の最先端技術をお互いに披露し、技術交流を通じて、横連携でサービスロボットの在り方を討論する。ロボカップの参加者らは、競技とは別に論文の提出やシンポジウムへの参加も義務付けられているのだ。
サービスロボットに要求される技術は、コミュニケーションのための音声認識/画像認識、センサーによる障害物回避、自律走行のためのマップ作成など多岐にわたる。個々の技術は研究室で精度を高めてきているが、実環境の中で総合的に使うとなると想定していたように動かないことも多い。
研究室という閉じれらた世界の中でロボットを開発していると、“最高の結果”が得られる環境内で実験を繰り返しがちになる。そのため、ロボカップに参加し、実環境により近い空間でロボットを動かすことで、研究室内では気が付かなかった課題を見いだせることも多いという。
筆者は、2008年に国内で@HOMEリーグがスタートしてから、毎年、この競技を見てきたこともあり、正直、「1年前の大会の方が、(ロボットが)よく動いていたなぁ」と思う場面もあった。
その感想を正直に参加者へぶつけてみると、「光源の条件が厳し過ぎる!」という答えが返ってきた。フィールドが設けられているのは、壁2面がガラス張りの明るい食堂だった。午前中は東側の窓から斜めに日光が差し込む。ロボットは逆光の中で画像認識を行って室内に入り、フィールド中央に向かう際には、日光が左横から差し込む状況になる。ロボットが方向を変えるたびに光源の条件が変わるため、画像認識の難易度がかなり高かったようだ(ちなみに、例年は外光が入らないように考慮された環境(屋内)で競技を行っている)。
さらに、研究室と食堂では、天井の高さも空間の広さも全く違う。競技中は観客も多く、常にザワザワとしており、音の響き方が違うため音声認識も難しい。その上、参加チームが増えたため、今回、チームに与えられる調整時間も短くなった。以前はスケジュールに余裕があり、ロボットの調整を終えてから競技をスタートさせることもできたが、今回は事前に決定されたスケジュール通りに競技が進行していった。
3分間の調整時間で、ロボットに搭載された各種センサーを最適な状態に調整して、確実に動かすのはかなり困難だったようだ。
それでも最終日には、ロボットたちが本来のパフォーマンスを取り戻し、「Restaurant(飲食店を想定。客のいるテーブルを覚えて、オーダーを届ける)」や、「Final Mission(成績上位5チームによる自由デモンストレーション)」では、きちんと人とコミュニケーションをとって動作する様子を見ることができた。
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