イメージセンサーの実効感度の向上は、実に多様なアプローチで進められている。裏面照射やフォトダイオードの位置を浅く形成するプロセス技術の開発、あるいはフォトダイオードそのものの改善や配線ノイズ対策、それに信号処理の工夫などにより、デジタルカメラが流行し始めた1990年代後半からの約15年間で驚くほど進化した。
当初、フィルムと同等(ISO100〜400)程度がせいぜいだった実効感度は、今ではISO値で10万を超えるレベルにまで達している。これら実効感度の向上が一体何をもたらしたのか。それは「撮影領域の拡大だ」とカメラ業界の関係者は口をそろえる。
例えば、暗い舞台の撮影においても、十分に高い画質を確保しながら、超高感度での撮影ができる。あるいは、フィギュアスケートのような室内競技でのスポーツ撮影が格段に容易になったといった例もある。また、結婚式の写真などでは、教会などがインテリアの一部として取り入れている自然光を生かした撮影が可能となり、結果的に結婚式の写真そのものの“画作り・撮影方法”が変わったという例もある。
この傾向が高感度化の進行でさらに進み、今では見た目には真っ暗でも、明るく撮れる(言い換えれば、撮影時の画作りも幅広い選択肢を取り得る)など、人の感覚を越えた領域にまで撮影の幅は広がった。
そして、さらに、この撮影領域の拡大は動画の世界にも及んでいる。
民生用カムコーダーでも、実効感度が高くなることで、「キャンドルライトの室内でも撮影が可能ですよ」といった宣伝をする製品が登場している。しかし、まだまだスチルカメラのような革命的な変化には至っていない。民生用カムコーダーの場合、作品作りなどの要素よりも、“イージーさ”の方が重視されるからというのも、1つの理由かもしれない。
しかし、デジタルシネマの世界をきっかけに、超高感度センサーが与える変化が、広く認知されようとしている。例えば、キヤノンは「CINEMA EOS SYSTEM」の開発と映画用CMOSセンサーの開発で、2012年のエミー賞 技術部門を受賞。ある一流映画監督は「デジタル化によって映像表現が変化している」と、シネマ用カメラのデジタル化を歓迎している。
もともと、一眼レフカメラによる映画撮影は、予算のない若い作り手が映像表現の自由度や光学面での品質が共に高く、比較的安価にシステムを構築できることを理由に、積極的に取り入れた手法だ。しかし、一眼レフカメラが持ち、デジタルシネマカメラにはない特徴を生かした映像が作り出されるようになり、巨匠と呼ばれる人たちがキヤノンに連絡するようになったそうだ。
キヤノン常務の眞榮田雅也氏にインタビューした際、同氏は「映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏やジョージ・ルーカス氏から話がしたいとのオファーが入り、これは可能性があると感じた」と話していた。
実は、キヤノンは映画業界とのつながりを持つきっかけとなった「EOS 5D Mark II」の動画機能を、報道カメラマン向けの“オマケ機能”として考えていたという。取材時に静止画だけではなく、動画としても記録できれば、いざというときに便利だと。しかし、映像を作る側の人たちはそう捉えなかった。当初、毎秒30フレームの撮影しか行えなかったEOS 5D Mark IIは、映像製作現場を意識した仕様にアップデートされ、映画業界へのヒアリングを経てCINEMA EOS SYSTEMが誕生した。
その後、CINEMA EOS SYSTEMを評価した映画の作り手たちは一様に、「撮れる画が変わる。それに伴って映像表現が変わる」と称賛し、エミー賞の受賞へとつながった。もしも、映画製作者たちが一眼レフカメラでの動画撮影機能に着目していなかったら、あるいはキヤノンが自分たちの領域にとどまり、シネマカメラという領域に踏み出さなかったら、このエミー賞受賞はなかっただろう。
受賞を大変光栄に思います。今回の受賞は、映画およびテレビ番組制作に携わるコミュニティーが、この業界に新たに参入したキヤノンが映像表現の領域を広げる一助を担ったことを認めてくれた証です。この賞は、キヤノンが引き続きエンターテイメントの世界に貢献していく上での、大きな励みとなります(※プレスリリースに掲載された眞榮田氏のコメント)。
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