東芝は、ジスプロシウムを全く使用しない「高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石」を改良するために、磁力を減らす異相が発生しにくい焼成プロセスや、鉄濃度を25%から30%まで高める技術などを開発中である。
東芝は、「nano tech 2013(第12回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)」(2013年1月30日〜2月1日、東京ビッグサイト)において、ジスプロシウムを全く使用しない「高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石」を展示した。
この高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石は、同社が2012年8月に発表したもの(関連記事)。ネオジム磁石より磁力は小さいが、高温になっても磁力が大幅に低下しないサマリウム・コバルト磁石をベースに、鉄の配合比率(鉄濃度)を通常の15%から、20〜25%まで高めた。
ジスプロシウムを用いる耐熱型ネオジム磁石と比べて、ほぼ同等の磁力(磁束密度)を有している。モーターの高速回転時は100℃以上の高温になるが、その場合には耐熱型ネオジム磁石よりも磁力は高い。また、高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を使ったモーターは、耐熱型ネオジム磁石を使ったものと比べて最大96〜97%の効率が得られている。
東芝によれば、「理論的に、高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を使ったモーターは、耐熱型ネオジム磁石を使ったものと比べて、効率を5%ほど上回ることができるはずだ。そのためには、鉄濃度を高めた場合に形成されてしまうアルファ鉄などの異相を大幅に減らす必要がある」という。そこで、異相を減らせるような焼成プロセスなどを開発中である。
高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石は、中国の輸出規制によって価格が高騰したジスプロシウムを使わないことが最大の特徴である。しかし、ジスプロシウムほどではないものの高価なコバルトを使用していることと、最近のジスプロシウムの価格低下もあって、現時点では耐熱型ネオジム磁石との価格差がほとんどない。
そこで、コバルトと置き換わる形で導入される鉄の濃度を30〜31%まで高めたものを開発中である。開発目標は、2014〜2015年となっている。
これらの取り組みによって、耐熱型ネオジム磁石と比べて磁力が高く、価格も安価な高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を実現させたい考えだ。
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