「側弯症」とは、背骨が曲がってしまう病気のことで、背骨のねじれとともに、体背面(背中)が隆起するという症状が現れる。あるデータによると、100人に1人程度の発症率といわれており、身近な病気の1つとして知られている。
発症するのは、主に小学生の高学年から中学生くらいまでの子どもたちである。早期発見できれば、装具などで治療を施すことができるのだが、発見が遅れると非常に大きな手術が必要になってしまう。そのため、日本国内の学校保健法では、身長・体重・座高、栄養状態に次いで、「脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無」が検査項目として挙がっている。しかし、「全国の小学校や中学校の健康診断で、側弯症の検査がきちんと行われているかというとそうではない」(秋元氏)という。
現在の検査手法には、X線を利用したものと、光の干渉縞を利用したモアレ画像法という手法がある。しかし、前者は被ばくの問題があり検診には向かず、後者は「計測装置が非常に高価で数値化が難しく、進行状態などを数値で表現しづらい」(秋元氏)という課題がある。そのため、実際の多くは、目視による検査が行われているそうだ。
目視であれば、被ばくの心配も高価な装置の購入も不要だ。しかし、全てが人によるため、秋元氏は「主観による判断のバラツキ、検査時間がかかる」といった問題点を指摘する。
こうした背景から東洋大学 メディカルロボティクス研究室は、2月の発売当初からKinect for Windows センサーに注目。Kinect for Windows センサーで簡単に計測・検査できるシステムが構築できれば、「側弯症の症状を安価な装置で数値化して、発症の早期発見につなげられる。その結果、重症化してしまう患者数の低減にもつながるだろう」(秋元氏)と考え、開発に着手した。既に、順天堂大学の医学部の協力の下、数回にわたるデモを実施し、システムとしての完成度を高めてきたという。「医療現場で行ったデモの結果、普段使用する医師や看護師が誰でも簡単に扱えるような工夫が必要であることが分かった」(秋元氏)。
秋元氏の言う通り、同システムの構成および操作は非常にシンプルだ。設置するのは、Kinect for Windows センサー、PC、基準プレートの3つ。被験者を基準プレートの位置に背中向きで立たせ、PC上の専用アプリケーションの[撮影]ボタンを押すだけだ。これで撮影、解析、保存までが行える。「集団検診での利用などを想定し、あらかじめ位置決めできる基準プレートを用意した。さらに、保存される画像はノイズ除去を行い、被験者のみを検出できるように工夫してある」(秋元氏)とのこと。
まず、Kinect for Windows センサーが被験者の体と基準プレートを検出する。検出した基準プレートの位置(距離情報)を基にキャリブレーションして、カメラを補正する。そして、被験者の背中の位置を抽出して、中心点を見つけ、左右の頂点を検索。その左右の頂点を結んだ角度をグラフ化する。「5mmごとに画像に縞を付けることで高低差を見やすく工夫してある。マウスでクリックした場所の断面が表示される」(秋元氏)。
「始めからグランプリを狙っていたが、それ以上にこのシステムを実用化することを考えてきた。現在、順天堂大学でデータをとってもらっているが、将来的に国内での標準化を目指し、さらに、世界展開できればと考えている」(秋元氏)。今後は、検診システムとしての実用化に向け、学会で認められることを目指すという。そのためには、何より多くの実証データが必要だ。秋元氏は「試作装置としての完成度は高まったので、これからの課題は量産化。量産化できれば興味を持ってくれた研究施設や大学などに展開しやすくなり、多くの貴重な実証データが得られるようになる。実用化に向け協力してくれるパートナーを募集している」と語る。
なお、“楽しいジョギングライフ”を目的に開発したアニマルズ・パーティーの「ジョグ・ザ・ワールド」がアイデア賞を、食事時の咀嚼(そしゃく)数を計測するシステムを開発した千葉大学先進的マルチキャリア育成プログラム TeamCITの「非接触型咀嚼センシング 〜食環境づくり噛むログ〜」が技術賞を受賞した。さらに、コンテスト当日急きょ追加された奨励賞に、三木大輔氏による作品「Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム」が輝いた。
第1回大会とは思えないほど非常にレベルの高い技術コンテストであった。最終選考に残ったチームのいくつかに話を聞いて見ると、2月の発売直後に購入し、前々からいろいろとアプリケーションを開発したり、自身の研究に応用したりと積極的に活用しているところが多数見受けられた。据え置き型ゲーム機「Xbox 360」から生まれたセンサーデバイスなだけに、筆者はゲーム的なアプリケーション作品のエントリーを予想していたが、見事に裏切られた。意外にも(?)本気の作品が多く、同コンテストを通じ、あらためてKinect for Windows センサーを活用した製品やサービスの可能性を感じることができた。第2回大会の開催にも期待したい。
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