トヨタ車体が1人乗り電気自動車(EV)「コムス」を発売した。鉛電池やスチールフレームの採用により、補助金込みの実質価格を60万円以下に抑えた。コンビニエンスストア大手のセブン-イレブン・ジャパンが、宅配サービスにコムスを採用することも明らかになった。
トヨタ車体は2012年7月2日、1人乗り電気自動車(EV)「COMS(コムス)」を発売した。全国のトヨタ自動車ディーラーの約半数に当たる、140社/2701営業所で販売する。税込み価格は、一般消費者向けの「P・COM」が79万8000円、業務用に最適な「B・COM」が66万8000円〜77万3000円。経済産業省の「クリーンエネルギー自動車等導入対策費補助金」を活用すれば(関連記事)、1台当たり最大7万円の補助金が得られる。B・COMの最安モデルであれば、実質価格が60万円以下の59万8000円となる。年間販売目標台数は3000台。既に約500台を受注しているという。
今回発表したコムスは、2000年8月〜2011年5月まで販売された初代モデルに次ぐ2代目となる。外形デザインとボディフレームを新たに設計し、新開発の電動システム、サスペンションを採用した。トヨタ車体社長の網岡卓二氏は、「これからの時代の近距離移動に適したEVとして、当社が独自に設計、製造したのが、この2代目コムスだ。『ちょっとお出かけ街までスイスイ(Chotto Odekake Machimade Suisui:COMS)』という開発コンセプトと同様に、気軽に使ってもらいたい」と語る。
コムスの外形寸法は、全長2395×全幅1095×全高1500mmで、車両重量は410kg(いずれもP・COMの場合)。道路交通法が定めるミニカーであり、運転には普通免許が必要である。P・COMは、容積が150リットルのキー付きトランクボックスを標準装備している。B・COMは、荷室の違いによって3タイプに分かれる。「デリバリー」は、容積が350リットルのキー付きデリバリーボックスを装備。「デッキ」は幅1005×奥行き675mmの荷台を備える。最安モデルの「ベーシック」は、荷室部が未装備状態である。
モーターの定格出力は、ミニカーの上限の0.6kW以下に収まる0.59kWながら、最高出力は5kW、最大トルクは250Nmを確保した。最高時速は初代モデルの1.2倍となる60kmを達成している。回生ブレーキを採用しているので、減速時のエネルギーを電力として回収することができる。
二次電池は、パナソニック製のEV用密閉型鉛電池を採用した。車両の床下に電池セルを6個搭載しており、総容量は5.2kWhである。満充電状態からの走行距離は、JC08モード相当(JC08モードにおける最高時速80kmを60kmに変更して計測)で約50km。転がり抵抗を低減したラジアルタイヤの採用により、走行距離を伸ばした。初代モデルの走行距離は約35〜45kmだった。充電は、付属のコードを使って、家庭用の100V電源に接続して行う。充電時間は、初代モデルの8〜10時間に対して、約6時間と短くなっている。電池容量がゼロの状態から満充電にするのに約120円(東京電力の120〜300kWhまでの従量電灯契約における価格、1kWh当たり23円で計算)なので、1km当たり約2.4円で走行できるとしている。
電動システムを構成するモーターとインバータ、メーター表示をつかさどるメーターECU(電子制御ユニット)、充電器は、一般的な自動車と同様にCAN(Controller Area Network)通信によって接続されている。インバータとメーターECUは自社開発で、モーターは安川電機と、充電器はイサハヤ電子と共同開発した。
シャシーは、コストに優れるスチールを使ったラダーフレーム構造を採用し、車体メーカーとして培ってきたプレス加工/溶接技術により仕上げた。鉛電池が組み込まれている車両下部のプラットフォーム部は、アンダーフレームをコの字断面、クロスメンバーを閉断面にして、曲げ剛性とねじり剛性のバランスを最適化した。サスペンションは、前輪がマクファーソンストラット式、後輪が後端ビーム式を採用した四輪独立懸架となっている。最小回転半径が、一般的な軽自動車の4.4mよりも大幅に小さい3.2mで、狭い路地での走行や駐車時の操作が容易だという。
安全性に関する法規定がないミニカーではあるものの、コムスに見合った独自の試験を実施した。衝突安全性については、毎時32kmにおける前面衝突試験で、乗員の安全性と電池が保護されていることを確認したという。一般的な乗用車の前面衝突試験は毎時50kmで行うが、交通事故の3分の2が毎時30km以下で発生していること、コムスを運転する時間の77%が毎時32km以下であることを勘案した結果、毎時32kmの試験でも安全性を確保できると判断した。ミニカーで装備が義務付けられているヘッドランプに加えて、車幅灯とテールランプを常時点灯させることで、被視認性を向上した。この他シートベルトは、ベルトアンカー強度試験で欧州法規に適合している。
コムスの車両開発を担当したトヨタ車体 製品企画センター 主査の松永豪氏は、「要素技術の開発を含めれば、開発期間は約4年にものぼる。1人乗りEVとして市場に受け入れられるよう、可能な限りコストを低減した。二次電池として鉛電池を採用したのも、低コストで信頼性が高いことによる。コスト低減を意識すると、高コストのリチウムイオン電池はまだ採用できない」と述べている。
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