およそ2年間の準備期間を経て、2012年3月、日本金型工業会はシンガポールとタイで商談会を開催することに成功しました。本連載の第6回で述べたように、シンガポールはアジアの中心地であり、現地のモノづくり中小企業の多くは欧米の大企業と直接取引していて、医療機器をはじめとする次世代産業にも積極的に参入しています。日本の金型企業が世界市場を狙うにあたって、絶対に外してはいけない地域の1つだといえるでしょう。
なお、筆者は今回の日本金型工業会JAPANブランドでの調査も含めて、過去に何度もシンガポールの企業を訪問しています。
そこでよく耳にしたのは、
「数社が視察にだけ来て、実際の取引の話はしない」
「長時間、対応したにもかかわらず、その後にメールをしても返信がほとんどない」
といった日本企業の消極的な姿勢に対する非常にネガティブなコメントです。
また、日本企業の場合、他のアジア諸国・地域のように、何十社という企業が商談会のために一斉に他国を訪れる、ということも過去にほとんど事例がありませんでした。
しかし、今回、シンガポール商談会には狭山金型、昭和精工、ペッカー精工、樫山金型、明輝、長津製作所、キメラ、チバダイス、カワマタ・テクノスなど東日本を代表する金型企業が20社以上も集まりました。このような日本の金型企業の“本気”に触発されて、シンガポール側も40社以上が商談会に参加したのです。都合上、1社ごとの商談時間は約20分間と短いものでした。
ところが「お互いに何を手掛けているのか」「どのような技術を有しているのか」を知ることで、例えば、
「〜〜といった加工ができないので、力を貸してほしい」
「米国の顧客企業を紹介するので、連携して事業展開をしないか」
「業界団体同士で定期的に交流しないか」
といった今後の関係につながるようなオファーや具体的な受注案件が幾つもあったとのことです。実際に数件の受注を獲得した企業が何社もありました。
また、商談会を通じて、日本人の経営者たちから、
「シンガポール人は日本人とはまた違った技術への真摯さを持っている」
「シンガポール企業の技術に自分たちが負けているとは思わない。しかし、シンガポール人の経営者に備わっているグローバルな視点を、われわれ日本人経営者は持っていない」
といったさまざまなコメントが出てきました。日本の経営者にとって、海外の企業は写し鏡のようなものです。海外の企業の“今”をのぞき込むことで、自分たちの強みや弱みが浮き上がってくるのだといえるのではないでしょうか。
なお、シンガポールの商談会に続いて、タイでも同じく商談会を開催。好評のうちに終了したことを付記します。
以上、日本金型工業会・金型企業の海外市場参入へのチャレンジを見てきました。これらの取り組みは始まったばかりであり、いまだ道半ばのため、確固たる成果が生じたと言い切るのは時期尚早でしょう。しかし、「国内金型企業の経営者が次世代に技術と事業を継承するため、国境を越えようと行動したこと」、これは今後の大きなうねりにつながっていくのだと感じています。
戦後、日本全体が経済成長を享受していたのと歩みを同じくして、日本のモノづくり中小企業は内向きになっていきました。しかし、国内の経営環境が激変する中で、中小企業の経営者は海外を眺望し、そのエネルギーを外に向かって解放しようとしているのではないでしょうか。(完)
筆者の共編著『中小企業の国際化戦略』(2012年、同友館)では、豊富な事例とともに、
「国内中小企業がどのように国際化しているのか?」
「中小企業が国際化するためには一体、何が必要なのか?」
といった問いに回答しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
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