ファイルの上下相互換も一部実現。 コラボレーション促進を――SolidWorks 2013【海外取材】ベンダーイベント潜入レポ(2/2 ページ)

» 2012年03月15日 13時50分 公開
[加藤まどみ,@IT MONOist]
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コラボレーションを重視していく

 米ダッソー・システムズ・ソリッドワークス リサーチ アンド デベロップメント担当副社長のジアン・パオロ・バッシ氏は「SolidWorks 2013のポイントは、コラボレーション機能を強化したこと。コミュニケーションの円滑化を図る機能は、将来、より重要になってくる」と語っていたように、コミュニケーションに関する機能は同社の開発の重点分野になっているようだ。ファイルの相互換性もその一環ということになる。

 また製品データ管理ツールの「SolidWorks Enterprise PDM」上に設計者や関係者同士がコミュニケーションを取れるチャット環境も示していた(図5)。

図5 Enterprise PDM上で他者とコミュニケーションを取る

 「履歴をたどることによって、『設計において、なぜそのような決定をしたのか?』も把握できる。今後、設計開発の現場では、さまざまな意味でのコラボレーションが現実化していくだろう」(ヒス氏)。

 一方、PDMは“構造化の仕組み”であるため、コラボレーションの導入が難しい面があるという。「人の対話」や「そこから生まれるアイデア」などは、構造化できるものではないからだ。「将来、非構造的なものを取り込むことができるようになれば、よりよいシステムができ上がるだろう。ユーザーのコメントやスケッチなどをまとめて記録できるようなものがよいと考えている。今後は、“構造的なものと非構造的なものとの融合”がカギになる」(ヒス氏)。

開発方針はあくまでユーザーの要望を第一に

 SolidWorksは、毎年新しいバージョンで提供する機能の約9割が、ユーザーの要望に基づくものだ。ユーザーはソリッドワークスへ、ほしい機能や改善要望を送ることが可能だ。ユーザー要望は、年間あたり7千〜1万件ほどに上るという。またソリッドワークスの担当者が直接ユーザーと会ってヒアリングすることもある。

 これらの要望は内容的に重なるものは1つにまとめられた上で、同社のWebコミュニティで「どの機能を一番実現してほしいか」という投票が2カ月間実施される。この投票は1ライセンスあたり1票。投票者はオリジナルの質問文面も見ることが可能だ。この結果は、毎年のSolidWorks Worldで「トップ10リスト」として発表される。この取り組みは、11年間続けられてきた。

「ランク付けは、直接ユーザーとコミュニケーションが取れるよい仕組みだと思っている」(ホールウェイ氏)。

 このトップ10リストのランキングを参考にしながら、新バージョンのSolidWorksに盛り込む機能が決定される。10位以内に入ったとしても、ただちに全てが実現されるわけではないが、数年後に実現されることもあるということだ。

 今回トップ10リストに入っていた、「エスケープ(Esc)キーで実行中のコマンドを停止する」「マルチコア対応」などはSolidWorks 2013では実現されないようだ。

日本ユーザーは、2次元作図にこだわりあり?

 なお日本からの要望で特に多いのは、「2次元作図機能の拡張」に関するもの。3次元モデルよりも2次元図面に関する要望が多かったということだ。ちなみに2次元作図への要望は日本のほかにドイツ、イタリアなどで多いということだ。ほかにはJIS標準のサポート強化や、断面図機能の改善への要望もあったという。

 SolidWorks 2013の新機能のうち、1割は直接ユーザーから出た要望ではなく、ユーザーの作業の様子を観察分析したことで見つかった課題を解決するために、同社が考えた機能だという。例えば、SolidWorksには材料コストの自動算出(Costing)機能があるが、これはユーザーから直接出た要望ではないということだ。従来は、ユーザーが電卓やエクセルで原価計算などをしていた。

「この作業には非常に時間が掛かってしまい、それが『イノベーションの時間を削っている』と感じた」(ヒス氏)。

 ソリッドワークス関係者とユーザーとの考えが違うこともあるが、最終的にはユーザーニーズを第一に考えて、盛り込む機能を決定しているということだ。

親会社のダッソー・システムズとの関係は?

 現在、ソリッドワークスの親会社であるダッソー・システムズの開発部門とは強く連携しており、SolidWorks製品にとってもそれがプラスになっているとのこと。ソリッドワークスとダッソー・システムズの関係者同士が対話する機会を、ほぼ毎日のように作っているという。

 「開発者や技術など、より多くのリソースにアクセスできるから」だという。実際、その恩恵により、SolidWorksで「サーフェシング」や「アドバンストモデリング」など新たな機能も実現したという。オンラインデータ共有ツール「SolidWorks n! Fuze(エヌ・フューズ)」も2社連携の中で生まれたツールである。

 ダッソー・システムズには現在8つのブランドがあり、将来的にこれらが有機的につながっていくだろうとしている。その中でソリッドワークスは、協調しつつも独立した路線を取っていくようだ。3次元CAD SolidWorksのカーネルも変わらないとしている。何にしても、今後もSolidWorksにおける“ユーザー第一の開発方針”は保っていくということだ。

まだ詳しく明かせない、次世代製品のこと

 ソリッドワークスが開発中の次世代製品についても言及した。次世代製品について具体的で詳しいことは明かされなかったが、“今のSolidWorksと異なる全く新しいもの”になるという。

 新製品のコンセプトの1つは、「設計の早い段階で、あらゆる分野の関係者が検討にかかわれるようになる」。「エンジニアにとって精度は大切だが、そうでない人にとってはコンセプトやマーケティングに役立つ情報などが分かればよい」とヒス氏が方向性を語っている。

 SolidWorksにおける次世代ツールへの移行は、極力シームレスにするという。また、最初は“補完的なツール”になるだろうという。次世代製品とSolidWorksの開発を同時に進めていくにあたっては多くのリソースが必要になるが、「ソリッドワークスの責任として、愛着を持てる製品を作るためには開発に時間を掛けなければならない。今後、“使える技術”を開発しなければならない」としている。

年に一度の“SolidWorksの祭典”

 毎年開催しているSolidWorks Worldは、同社最大規模のユーザー向けのイベントであり、その年の秋ごろに発売されるSolidWorksの新版の内容の一部が発表されるのが通例となっている。ほかにもツールのレクチャーやユーザーのツール使用事例、「SolidWorks認定試験合格者(CSWP)の会」、設計速度を競うイベント、β版チェックのランキング上位者の表彰、関連ツール提供メーカーが集まるパビリオンなど、SolidWorksに関連するさまざまな催しを実施してきた。

 β版のチェックには何人かの日本人が大きな貢献をしており、例年、SolidWorks Worldの招待メンバーに名を連ねている。2012年の参加者はユーザー、代理店、ソリッドワークスの社員などを合わせ事前登録が33カ国から約5500人で過去最高、最終日の時点で5940人であった。

 次回は2013年1月に米国フロリダ州オーランドで実施される。

Profile

加藤まどみ(かとう まどみ)

技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。



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