ハイパーモデル分割タイム始まるよモノづくり素人だけど2代目社長の製品開発(2)(1/4 ページ)

有名クリエイターが作った初音ミクの3次元CGを製造向きかつ精細なデータに仕上げていく。そして、ひたすらモデルを分割、分割、分割だ。

» 2012年02月10日 00時00分 公開
[伊藤拓 アステック/3D-GAN,@IT MONOist]

 人との出会いはホント偶然で、3D-GANの紹介によりTripshots氏製作の3次元CGによる初音ミクをフィギュアモデル化することになった当社は、まずデジタルデータからRP(光造形)モデルを出力し、実体物をベースにその形状を確認することにしました。サイズや素材などの制約はあるにせよ、いずれのカテゴリーに属するプロダクトであっても、最終成果物が立体物であれば、紙や画面だけではなく、実体物サンプルを見たり触ったりして、ターゲットモチーフの形状や構造を把握・確認してから実作業に移るべきと考えているからです(Tripshots氏との出会いからデータ受け取りまでの経緯は、前回に)。

 Tripshots氏から渡されたデータを開いてみると、PV(プロモーションビデオ)の『Nebula』のラストシーンから抽出された「脚を組んでイスに座っている」初音ミクがPCの画面に表示されました。

Tripshots氏から入稿されたOBJファイル
Tripshots Artworks 01収録PV『Nebula』のラストシーン
(C)Crypton Future Media,Inc. www.crypton.net

 「おォ〜、雰囲気あるじゃん!」――お好きな方にはいまさらな情報ですが、フィギュアモデルは、関節部位が可動する「アクションフィギュア」と称されるものと、固定ポーズで「スタチュー」と称されるもの、この2種類に大別できます。

 今回は、そのスタチューモデルの製作となります。一般的にスタチューモデルは関節可動を除外している分、そのモチーフキャラクターがアクションしている一瞬のさまを切り出した、動的かつ魅力的なポージングで造形されているものが多く見受けられます。それは歌舞伎で言うところの「見得切り」(歌舞伎役者が、感情がたかぶったシーンで少しの間、動作を止める演出)に近いのかもしれません。

 しかしながら、今回のTripshots氏による初音ミクは座像。非常に静的です。一見すると「大人し過ぎるかな?」とも思えるくらいですが、逆に普遍的なポーズでありつつもクールな印象で、リビングなどにオブジェとして置いても過度な主張をしない……さまざまな展示シチュエーションとも親和性が比較的高いモデルになりそうです。

 また、昨今のフィギュアとしてのセオリーからは若干外れつつも、いわゆる原型師と呼ばれる第三者が介在せず、クリエイター自身が形状定義した3次元CGのモデルデータからダイレクトに金型を彫刻して量産するとなれば、「マルチプルアートとしても興味深い製品になるのでは?」とも思いました。

マルチプルアート:一点ものの高価な作品にだけ芸術としての独創性を求めるのではなく、量産されることで固有の美や作者の真意を広く普及・伝搬しようとする芸術概念。



 しかし……、Tripshots氏から受取ったそのデータは、製造業の現場においては少々不適切な作り方が試されていたのです。

 勘の良い読者の皆さんなら察しのことかと思いますが、入稿されたデータは映像コンテンツ用にモデリングされたものでしたので、金型切削はもちろんのことRP出力さえままならない、つまり「実体化するには非常に困難である」と判断せざるを得ないものでした。

 ただ誤解されないように補足説明しますと、入稿されたそのデータに不都合があるのは、あくまでも立体プロダクト化する際の製造プロセスにおいてです。当然ながら、映像コンテンツ用としては全く問題がありません(それはTripshots氏が制作したPVをご覧頂ければ一目りょう然でしょう)。

PV『Nebula』より

 メッシュを細密にすることでいたずらにデータ量を増やしてしまうよりも、モデリングは多少粗くても、精緻なマッピングデータを貼り込んだ方がマシンへの表示負荷も少なく、映像コンテンツに用いる際には何かと都合が良いのです。

 画面に映らない部分の製作に注力するのは無駄と言ってしまってもよいかもしれません。

 しかし、繰り返しますが「実体物にするには」どうにも不適当なんです……。

 具体的に言えば、

  • オブジェクトのシェイプを構成するメッシュが粗い
  • 肉厚概念がない(肉で埋まっているかと思えば、物性を担保できないほどに極薄だったり……)
  • オブジェクト同士が干渉していたり交錯している部位が存在する
(左)オブジェクトを構成するメッシュが粗く、このままだと表面がガタガタしたまま実体化されてしまう
(右)ツインテール=左右のオサゲ髪とイス座面や上着、スカートが互いに物理干渉している
ボディースーツのすそやえり。肉が埋まってしまっており、スケール感に乏しくなってしまう
手首とそで口が物理干渉してしまっている

 当社の設計チームと金型チーム、成形チームが技術面からの、そして私の「プラモ脳」(前回記事参照)が模型表現(リアリティとフィクションのサジ加減)的な観点からの懸念事項をそれぞれリストアップし、Tripshots氏と協議を開始しました。

 その結果、外観上の干渉部位はTripshots氏に修正していただき、肉厚やパーツ分割の設定は当社が、ということにして、技術面からの懸案はまずはリテイクされたデータを待つことになりました。

Tripshots氏の表現とプロダクト

 Tripshots氏が干渉部位などと合わせてデータ修正できるように、続けて模型表現的な懸念について協議しました。

 お互いの拠点が遠距離な故に、なかなか顔と顔を突き合わせての打合せが困難でしたので、メールベースで意見交換を始めたのですが、双方がこれまで見て来たもの/興味を持ったものが違ったり、目標とする着地点にズレが生じていたりすると、細かいニュアンスなどは伝わり難いものです。ましてやその着地点のビジョンがハッキリしていないとなればなおさらです。Tripshots氏から度々送られて来るファイルを見ていて、彼なりの立体表現としての正解を模索しているんだな、と感じました。

 これは本人に確認したわけではないのですが、恐らく最初に入稿されたモデルデータはフィギュアや模型といった立体プロダクト化を意識して製作されたものではなく、ご本人もそれまでそういった造形的な視点からフィギュアや模型を見つめたご経験もそれほどなかったんじゃないかな、と思います。

 それは悪いことでも何でもなく、われわれとは興味の対象や視点そして表現フィールド、さらには訴求するポイントが違っていたからにすぎません。

 先述の通り、CGクリエイターの方はモデリングにのみ注力しているワケではないので、そもそもフォルムやディテールを立体形状として反映させたオブジェクトを製作されていないのは、当然と言えば当然なわけです。

 しかし、今回製作しようとしているのはあくまでも立体プロダクトですから、Tripshots氏には細部にわたり立体形状として作り込んでいく必要性を説明しました。その上で、各種模型雑誌の記事、他社製品のフィギュアやガレージキットなどを参考資料としてお渡しし、そしてときにはご自宅まで押し掛けて、デッサンやディテールに至るまで模型としてあるべき表現、そしてTripshots氏がアプローチしたいと考える表現について意見交換を重ねました。

 そういったやりとりを重ねるうち、どうやら彼のクリエーター心に火が付いてしまったようです。

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