“想定外”事象発生直後に将来を想定するために――日立の生産管理技術モノづくり最前線レポート(32)(1/2 ページ)

日立製作所では、バラツキそのものに着目した生産管理手法を全社的に展開しようとしている。想定外の事態に際しても迅速な納期回答ができる仕組みを確立しつつあるようだ。

» 2011年11月30日 11時50分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

 構造計画研究所が2011年10月12〜14日に開催したイベント「KKE Vision 2011」では、各業界の専門家による多数の講演が行われた。本稿では統計解析のプロが現場と共に構築した“想定外への対応を考慮した生産管理の手法”について、概略を紹介する。

 日立製作所 横浜研究所 野中洋一氏は、「物流の予測と制御を行う次世代生産管理技術」をテーマに講演を行った。

 日立製作所の取り扱う製品は、電子デバイスのような量産品から発電プラントや電車車両のような完全受注生産品まで幅広い。

 当然、量産品と受注生産品とでは生産プロセスそのものが大きく異なっているが、製造機器の故障、部品サプライチェーン網のトラブルなど、生産管理業務における課題は納期順守率にある。生産計画のズレをいかに迅速に解決し、納期回答するかだ。

 突発的事象発生時にどれだけ迅速に後工程への影響を把握するかがキーとなるが、量産品と個別受注品とでは、製造実績情報の性質が異なるため、別個のアプローチをしたという。

実績を基にしたシミュレーションによる問題発見のアプローチ

 データマイニングなどの手法を使った現場動態把握(実績収集)および生産物流シミュレーションを独自の数理モデルを使った予測(生産物流シミュレーション)を定期的に実施して、将来の納期上の問題の早期発見を目指そうと考えた。

技術的課題

 生産計画の見直しに際しては、シミュレーションの前提となる入力データをいかに正確かつ簡便に得るか、その方法を構築する必要がある。また、将来予測に対して利用者に分かりやすく可視化するための手法も必要だ。

*本稿で掲載の図版は全て野中氏の当日プレゼンテーション資料を引用したもの

 野中氏は、この2つの技術的課題に対して、それぞれ、現場と合致した入力データ取得については「ばらつきモデリング手法」を、トラブルの可視化については「波及予測手法」を採用している。以降でそれぞれの考え方を見ていこう。

量産品の生産バラツキを把握する:「ばらつきモデリング手法」

 量産品の製造実績データは製造量が多いため、統計的に有意なデータ量を得ることができる。

 「例えば日立が製造する電子デバイスは年間で億単位の生産量になる。製造工程も1万を超えるため、製造進捗実績データは1日当たり数百万件に上る。統計解析を行うのに十分なデータ量を得られる」

 ただし、複数ロットを同時にラインに流す場合、投入開始時間と終了時間だけの計測ではロットごとの「隠れた時間」(段取り、リペア、リワークなど)が見えない。

 そこで、独自の数理モデルを使い、統計的にワーク1つ当たりの処理時間を推定することで、将来のシミュレーションデータを含め、近似の生産量を予測する手法を採用した。

 しかし、バラツキの分布自体は「統計の教科書にあるような美しいカーブを描くわけではない」。そこで、バラツキの実績をそのままシミュレータに渡すことで、バラツキそのものをモデリングする手法を考案した。

 まず、製造ロットと各ワークの処理時間を観測したところ、「処理ワーク数と処理時間との間に相関関係があることが分かった」という。

個別受注生産における現場動態抽出方法

 量産品のように1日に大量の数量を生産するわけではない個別受注生産品において、バラツキを計測するには、1日当たりの実績値が統計的に有意な量を得られるわけではないので、別の工夫が必要になる。

 野中氏は、ここで、作業時間の山積みによる想定作業時間と実績との差分がどのように生じるかに着目した計測を実施、このバラツキを多変量解析にかけることで、複数の作業日の誤差が最小限になるように各工程の作業時間を補正していくシミュレーションを行った。この結果、生産シミュレーションの精度は90%程度まで向上したという。

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