ここまで、SERDES技術やイーサーネットを用いた製品開発の取り組みについて説明してきたが、車載情報系ネットワークとして広く採用されているMOSTの陣営も新たな動きを見せている。
現在、MOSTの規格の中で最も多く利用されているのがMOST25である。MOST25は、規格の策定を主導した欧州の自動車メーカーの意向もあって、ノイズ対策の負荷を大幅に軽減できるプラスチック光ファイバ(POF)を接続ケーブルに採用している。また、帯域利用効率を高めるために、基本のネットワークトポロジにはリングネットワークを用いている。つまり、MOST25を採用するということは、銅線よりも配索が難しいPOFを用いたリングネットワークを車両内に導入するということを意味するので、車両設計を根本から変更する必要がある。
最新規格であるMOST150は、MOST25と同様に、POFとリングネットワークを前提とした運用が基本的な仕様となっている。このため、欧州の自動車メーカーは、MOST25をMOST150に置き換える際に、大幅な設計変更を行う必要がない。その一方で、国内の自動車メーカーのようにMOST25を採用してこなかった企業が、大規模な車両設計の変更が求められるMOST150を採用する可能性は低い。
そこで、MOSTの策定団体であるMOST Cooperation(以下、MOSTCO)は、MOST150に、同軸ケーブルなどの銅線を利用するための仕様を盛り込むための活動を進めている。MOST規格に準拠したICを開発している米SMSC社は、「同軸ケーブルを利用できれば、エンジンルームなどPOFを設置できない高温環境でもMOSTを利用できるようになる。当社としては、車載カメラシステムを構築する際に、車載カメラモジュールとリングネットワークを接続するケーブルとして同軸ケーブルを使いたいと考えている」と述べる。
また、MOSTCOは、MOST150よりもさらに伝送速度を高めた次世代規格であるGigabit MOSTの検討も開始している。Gigabit MOSTでは、最大伝送速度が1Gbpsまで向上する見込み。ただし、1Gbpsという最大伝送速度を実現するには、ガラス光ファイバ(GOF)での接続を採用する必要がある。GOFはケーブル径がPOFより小さい。このため、接続コネクタや組み立てコストが大幅に増加すると見られている。また、POFを用いる場合よりさらに厳しい耐振動対策を施す必要も生じる。Gigabit MOSTを量産車で利用できるようにするには、これらの課題をクリアする必要がある。
高速化する車載情報系ネットワークの通信速度に対応するべく、電子部品メーカーも取り組みを進めている。 米TE Connectivity社は、LVDSを入出力に用いるSERDES技術やUSB 2.0などによって高速の通信を行う車載システム向けのコネクタ規格であるHSD(High Speed Data)に準拠した製品を販売している(写真A)。
HSDコネクタは、高速通信を行う際に問題となるノイズ対策を目的として、コネクタとケーブルを接続する部分が金属製のハウジングで覆われているなどの特徴を備える。HSDの規格策定は、車載情報機器にSERDES技術が広く利用されている欧州市場を中心に行われた。このため、HSDコネクタの需要もほとんどが欧州向けとなっている。
TE Connectivity社の日本法人であるタイコ エレクトロニクス ジャパンは、2010年に国内市場向けの本格的な販売活動を開始した。同社によれば、「HSDコネクタをSERDES技術に用いたいという国内顧客からの要求はまだ少ない。しかし、国内向けカーナビへの搭載比率が高まっているUSBについては、ビジネスチャンスが広がっている。当社では、国内の顧客からの要求に適した高速通信コネクタを新たに開発しているところだ」という。
TDKは、車載情報系ネットワーク向けのノイズ対策部品の新製品として、MOST150に対応するコモンモードフィルタを開発している。
一般的に、光ファイバを使うMOST25やMOST150の場合、伝送路に関連するノイズ対策部品は不要なはずである。しかし、「通信速度が高いMOST150では、回路基板上の光コネクタとICの間に発生するノイズへの対策が必要になる」(TDK)という。開発中のコモンモードフィルタは、カットオフ周波数が6GHzの民生用機器向け製品をベースに、耐熱性などの面で車載グレードをクリアしたものとなっている。
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