上述したように、車載情報系ネットワークの動向は、欧州市場向けの車種に広く採用されているMOSTに対して、800Mbpsという高い伝送速度を武器に1394 Automotiveが参入を図るという構図になっていた。しかし、2009年ごろから、欧州の自動車メーカーを中心に、MOST150や1394 Automotiveよりもさらに高速な、1ギガビット/秒(Gbps)以上の伝送速度を持つ車載情報系ネットワークの採用を検討する動きが活発化している。候補となっているのは、液晶テレビやノート型パソコンなどの民生用機器において、ディスプレイと本体を接続するのに広く利用されている SERDES(シリアライザ/デシリアライザ)技術と、屋内のLAN環境などに用いられているイーサーネットである。表1に、MOST150と1394 Automotive、そして車載情報系ネットワーク向けに開発されているSERDES技術やイーサーネットの特徴を示した。
SERDES技術やイーサーネットを用いる車載情報系ネットワークが検討されている背景には2つの理由がある。
1つ目は、家庭内における高品位(HD)の映像コンテンツの普及/拡大が挙げられる。薄型テレビや高性能のパソコンが普及したことによって、デジタル放送やBlu-rayディスクなどのHDコンテンツが家庭内で視聴される機会は飛躍的に増大している。そして、近い将来には、これらのHDコンテンツを車内で利用したいというニーズが高まると見られているのだ。
これまでも、カーオーディオ用の媒体がカセットテープからCDに移行したり、カーナビにDVDの再生機能が搭載されたりしてきた。最近では、カーナビやカーオーディオが、米Apple社の「iPod」に代表されるデジタル音楽プレーヤと接続するための機能を備えるようになっている。このようにして、車載情報機器が民生用機器で普及した技術を取り込んできた歴史を考えれば、車内においてHDコンテンツの利用が拡大することは想定されてしかるべきだ。
また、車内におけるHDコンテンツの利用に併せて、後部座席で映像を楽しむためのリアシートエンターテインメントシステムの需要拡大も期待されている。さらに、メーター類の表示を液晶ディスプレイで行うデジタルクラスタやヘッドアップディスプレイなどの採用拡大も同時に進む可能性がある(図1)。そして、これら液晶ディスプレイを備えるシステムと、車両前部の中央などに組み込まれている車載情報機器の本体部を接続する際に用いるものとして検討されているのが、伝送速度が1Gbpsを超える車載情報系ネットワークなのである。
なお、自動車メーカーが、車内で用いられる主なHDコンテンツとして想定しているのは、720pのフルHD映像(1280×720画素、60フレーム/秒、24ビットカラー)である。この720pのフルHD映像を無圧縮で伝送しようとすると、1.33Gbpsの帯域幅が必要になる。車載情報系ネットワーク用に開発されているSERDES技術は、伝送速度が最大で2.975Gbpsに達することから、720pのHD映像を無圧縮で伝送するのに十分な帯域を備えていることになる。
これに対して、伝送速度が1.33Gbpsに満たないMOST150や1394 Automotiveの場合、720pのフルHD映像を伝送するためにはコーデックを用いて映像データの圧縮/伸長を行わなければならない。さらに、映像データの圧縮/伸長を行うことで発生する遅延にも対処する必要が出てくる。
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