タイ版「灯籠流し」を制したのは?――NHK大学ロボコン2011大学生がロボット作りの技術を競う(2/3 ページ)

» 2011年06月23日 11時00分 公開
[大塚実,@IT MONOist]

 競技を開始したら、まずは手動ロボで線香立て(3個)をポール1まで運んで設置する。ポール1は相手チームも利用するので、どの場所に置くかもポイント。一気に全部の線香立てを持ち上げて同時に置くタイプのロボットだと早いが、相手チームがいち早く線香立てを置いて、並んだ場所をなくしてしまえば、3つ同時にはもう降ろせなくなってしまう。3個全て置くことに成功したら、2台の自動ロボットがスタートできる。

photo 線香立てを乗せる「ポール1」(6本)。両チームが共用するので場所の選択は重要
photo ロウソク台と炎。2セット分が用意されているが、使うのは1セットで構わない
photo 飾りと花も2セット分ある。これも使うのは1セットでいい
photo 飾りと花はまずステージ手前の「ポール2」(4本)に移す必要がある
photo 左下の円内でクラトンを完成させ、中央の川面(青い板)に落とす
photo 川面はシーソーになっているので、クラトンを落とすと大きく揺れる

 次に、手動ロボがロウソク台をステージの所定の位置に移動させ、自動ロボが飾りと花をポール2に置く。続いて自動ロボがポール2から飾りと花を取り、ロウソク台の上に重ねて乗せる。花の3カ所の穴に手動ロボが3本の線香を挿して、クラトンが完成だ。ここからは全て自動ロボの仕事で、1.8kgもあるクラトンを川に落として、ロウソクの先端にキャップ状の炎を被せなければならない。ロウソクの直径は6cmで、炎の内径は7cm。揺れるクラトンに乗せるのは非常に難しく、失敗したチームも目立った。

 今年のルールや得点方式はちょっと複雑で分かりにくいのだが、課題の達成状況による得点を簡単にまとめたものが以下の表である。

達成した課題 得点 累計
線香立て(3本×3個)をポール1に置く 18点 18点
ロウソク台を所定の場所に設置 12点 30点
飾りと花をポール2に置く 20点 50点
飾りを花と線香(3本)をロウソク台に乗せる 50点 100点
完成したクラトンを川に落とす 30点 130点
クラトンの先端に炎を乗せて3秒経過 - 300点

 実際には得点はもっと細分化されているのだが、18点、30点、100点などの得点状況によって、どこまで課題を達成できたのかが分かる。130点の次が300点のように見えるが、試合結果では162点などのスコアも多い。これはどういうことかというと、余ったパーツを使って、2つ目のクラトンを作っても構わないからである。もしロイ・クラトンに失敗しても、こういった“裏技的”な方法を使って、少しでも得点を稼ぐことが可能で、特に準決勝で長岡技術科学大学は2つ目のクラトンも完成、212点という高スコアをたたき出していた。

東京大学が全試合でロイ・クラトン達成

 課題の全てがダントツで速かったのが東京大学である。まず自動ロボは早くて正確。自動ロボは、地面の白線を目印にして移動するのが一般的だが、東京大学の自動ロボの1台はスタート地点に斜め向きで設置されており、白線を無視するような形で一気に最短距離をダッシュ。ミスらしいミスは全くなく、最も難易度が高い炎の設置も、1回も落とさずに全て成功させた。また印象的だったのは手動ロボの動きも完璧だった点。このプレッシャーの中でも失敗しない精神力は大したもの。どれだけ練習を積んだのだろうか。

(動画)決勝戦の東京大学vs長岡技術科学大学

 線香立てをポール1に乗せるまでは、ルール上、手動ロボ以外は動けないので仕方ないが、それ以降は各ロボットが無駄なく並列して動き、まるで工場の流れ作業を見ているようだった。おそらく、最短時間で課題をクリアするためには、どのロボットをどう動かしたらいいか、考え抜いて戦略を決めたのだろう。もちろん、他の大学もそうやって考えているだろうが、「こうしたら早いが技術的に難しい」ものをどれだけ実装できたか。それを高いレベルで実現していたのが東京大学なのだ。

 東京大学があまりにも強すぎて会場では分かりにくかったのだが、各ロボットの動きをあらためて見直してみると、このチームはまだ“余力”を残していることに気付く。ポール2に飾りと花を置いた自動ロボは、すぐに炎を取らずに、飾りと花をもう1セット取りに戻っているのだが、このために、川面にクラトンが置かれてから、自動ロボが炎を持ってくるまでに10秒ほど待ち時間が生じている。自動ロボがすぐに炎に行けばこの時間が短縮できると思うが、これは万が一ロイ・クラトンに失敗したときにも、少しでも得点を積み上げられるように考えてのことだろう。

 ただ、もし対戦相手が互角以上だった場合、少しでも早くロイ・クラトンを達成するために、東京大学もプログラムを変えて最速コースを取らざるを得なかったはずだ。今回、そこまでの速度を持ったチームが他に無かったため、“安全策”を取ることができたということだろう。もし相手チームがさらに早い場合、炎を2つ持って行くのをやめ、1つだけにすれば、“1回失敗したらアウト”になる代わりに、もう2〜3秒は削れる。お互いにリスクを選択するようなギリギリな戦いが見られなかったのは少し残念ではあるが、世界大会ではそういった場面もあるかもしれない。

 東京大学チームの今大会のベストタイムは、決勝戦で記録した1分23秒。実力からすれば、1分10秒台前半のタイムも十分狙えるのではないだろうか。

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