中国企業が生産スケジューリングをどう取り扱っているか、そこから見える生産性革新の速度と日系製造業の遅れをどうばん回するべきか。しがらみを払拭するために必要なこととは……?
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2005〜2010年の期間に、筆者の会社が開発・販売している生産スケジューラは、大手日系製造業を中心に100社以上に導入されました。大手企業の工場では生産管理業務の中国への移管がおしなべて終了しており、現地化という意味では順調のように思えます。特にリーマンショック後の不況の中でコストの問題からこの傾向は中小工場においても加速していたのですが、日本国内と同様に、資金面で中小企業は優秀な中国の方を採用できていないようです。
当社の上海支社を顧みても少数精鋭と銘打っても、日本人と同様のオールラウンダーは中国にはいないのが現実です。かといって賃金上昇の続く中国でそれぞれの業務ごとに専門家を雇うことは現実的ではありません。当社のようなサービス業の場合は、会計・法務などといった業務をアウトソーズできますが、製造業の製造ラインでは、派遣・契約社員といった雇用形態のない中国では難しいのが現実だと思います。
限られたリソースで運営しなくてはならないにもかかわらず、積極的に投資を進める現地新興企業との競争も考慮しなくてはならない中小の日系製造業は、今後どのようにして生き残り策を立てていくべきでしょうか。
情報システム要員や生産管理要員の少ない中小製造業の顧客のために筆者らが提案しているのは、運用コストを抑えられるクラウド環境を活用する方法です。
クラウド型の生産計画システムで、基本的な生産スケジュールの機能(負荷平準化・バックワード・フォワードスケジューリング・製造実績を加味したリスケジューリングなど)がカバーできれば、運用人員は最小限で済みます。また、多くの場合、クラウド型アプリケーションではカスタム開発なしで利用することが前提なので、導入が早いだけでなく、生産スケジューラ利用のためのハードウェア/ソフトウェアの資産を自社に持たなくてもよくなります。人材の流出入が多く、ノウハウの定着が難しい中国国内の工場の場合は、カスタムなしの方が作業の標準化や事業継続がスムーズになる利点もあります。
クラウド型アプリケーションはグローバルでの生産や、大きなIT設備投資が難しい中小規模の企業にとっては非常に有効な手段となるでしょう。
日系企業の既存の中国における中小工場の多くは、従来、台湾などの企業と合弁で事業を継続してきました。本来、中小企業は大企業と比較して環境への適用能力が高く、規模が小さいからこその意思決定の早さを武器に市場での生き残りを図ってきましたが、このような複数の国の資本が入った工場ではそうはいきません。方針転換1つ取っても日本の本社だけでなく台湾本社や、現地で雇用している大陸中国の人々という3者の了解を得てようやく仕事を進められるようになります。
考え方の異なる3つの国の従業員をまとめて1つの方向に導くためには、総経理(社長)のリーダーシップはもちろん、外部コンサルタントの力を借りることが必要な場合もあります。中小製造業においてはその費用はバカにならないものではありますが、工場のレイアウトや従業員の待遇、方針決定の民主化(共産圏ではありますが、共産主義であるがこそ労働者の意見が強いので)を実現し、見違えるほど生産性を上げた工場をわれわれはたくさん見ています。なぜかといえば、当社のようなシステムを必要とする工場はそのような生産改革に成功した企業のみだからです。
日本企業の特徴 | 台湾企業の特徴 | |
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1 | 基礎技術に優れる | 応用技術に優れる |
2 | 品質が良い | コストが安い |
3 | 計画性がある | 迅速な対応が可能 |
4 | ブランド力がある | 中国市場で優位 |
日本の進出当時は台湾の中国での先行性が役立った。工場が大きくなるにつれて、両国の利害が衝突するようになる |
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