「リーフ」で勝負に出る日産自動車(2/2 ページ)

» 2010年10月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]
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過去の経験を生かす

 日産のEV開発が大きな進歩を遂げていることは、リーフに搭載されている技術を見れば一目瞭然だ。リーフに適用されている技術の中には、10年前のアルトラEVから継承され、性能を大幅に改善させてきたものがある。

 その好例が、走行用モーターだ。モーターの出力は、アルトラEVが83馬力(62kW)であったのに対して、リーフでは107馬力(80kW)にまで高められている。また、速度性能も向上している。最高速度は、アルトラEVが75マイル/時(約121km/h)であったのに対して、リーフは90マイル/時(約145km/h)になった。

 これら以外に、モーターと2次電池の制御システムにも過去の経験が生かされている。日産は、アルトラEVでの経験に基づいて、2次電池の温度と充放電を監視するアルゴリズムのプログラミングを注意深く行った。このことは、電気エネルギーを節約して、走行距離を可能な限り伸ばすことに役立てられている。「これらの知識は、すべて経験から学んだものだ。われわれは、それを2次電池の出力とエネルギーの制御に応用している」(篠原氏)という。

 アルトラEVでの経験を通して、日産は、消費者が充電時間を重要視していることを知った。消費者の多くは、EVの短所として、走行距離よりも充電に要する時間のほうに問題を感じていた。つまり、「走行距離は100マイルでもかまわない。しかし、遠くまで行ったら電池が切れて、再び走れるようになるまで十数時間も待たなければならないのは困る」というのだ。

 この問題に対処するため、日産は、米国エネルギー省(DOE)、地方自治体、一般企業などと手を組んで、充電インフラの整備に関する壮大な実験プロジェクトに着手した。同プロジェクトは、DOEから交付された約1億米ドルの資金により、日産と米ECOtality North America社(旧eTec社)が共同で進めるもの。この実験を行うために、日産は最大で1000台に上るリーフを米国の5つの州内に配備する。そして、ECOtality North America社は、220V電源を用いる通常充電器を1万2500カ所に、440V電源を用いる急速充電器を250カ所に設置する計画である。

 一方、家庭用充電器の設置については、米AeroVironment社と事業を進めることにしている。この家庭用充電器は、220V電源を用いて8時間でリーフを満充電にするというものである。この家庭用充電器は、日産のマーケティング戦略のパズルを完成させる重要なピースになるかもしれない。というのも、220V電源を用いる充電器がなければ、購入者は110V電源の通常のコンセントから16時間もかけて充電しなければならないからである。なお、日産とAeroVironment社は、充電器の提供のみならず、ガレージに充電器を設置する電気工事業者の認定も行っており、リーフの購入者に紹介する事業も開始する。

 日産の米国法人である米Nissan North America社で製品計画責任者を務めるMark Perry氏は、「ユーザーが希望するのであれば、日産の販売店が統一の窓口になってすべてを手配することにしている。また当社は、リーフの購入者のために、米国内の全地域に充電設備を設置する方針だ」と語る。

EVへの期待と残る課題

 日産は、現在進行中の米国内のインフラ整備と、Liイオン電池技術の改良によって、現在のリーフが10年前に発売された初代「プリウス(トヨタ自動車製)」と同じ段階に到達しつつあるかもしれないと考えている。つまり、世界の自動車市場で、EVが一定のシェアを獲得する準備ができているというのだ。確かに、2次電池パックは、10年前にトランクと後部座席を占領していたものよりも格段に小型化されている。車両価格を以前のEVよりも抑えながら、走行距離も100マイルを確保した。また、リーフのEVシステムは、ガソリンエンジン車と比べて加速性能が高く、静粛性は格段に優れている。

 さらに日産は、現在の消費者の心理が、10年前と比べて大きく変化していると見ている。Perry氏は、「できる限り環境に配慮した生活をしたいという人は増え続けている。彼らは環境問題に関心があり、次の世代に何を残せるのかということを気にかけている。この傾向は、あらゆる市場調査データから読み取ることができる」と強調する。

 EVに対する期待感は、ほかの自動車メーカーにも広がり始めている。米Ford Motor社、米Chrysler社、三菱自動車、ドイツBMW社、中国BYD Auto社、ドイツDaimler社、米Tesla Motors社などが、EVの量産や今後の市場投入を発表している。

 その一方で、この流れに加わらないメーカーもある。トヨタ自動車と米General Motors社は、次に大きなムーブメントを起こすのはプラグインハイブリッド車だと考えている。業界アナリストの中にも、「2次電池の問題はまだ解決しておらず、EVの量産は時期尚早である」と考える人々は多い。米アルゴンヌ国立研究所の交通研究センターで理事長を務めるDonald Hillebrand氏は、「確かにエネルギー密度は格段に向上している。しかし、消費者の多くがEVは信頼に足ると感じるところまでは達していない」と見ている。さらに、2次電池の権威として知られる米マサチューセッツ工科大学材料科学科教授のDonald R Sadoway氏も、「現行のEVの市場展開は失敗に終わる可能性がある。それでも、政府関係者の記憶の中にEVのことが残っていれば、Liイオン電池と同等以上の性能を備え、より受け入れやすい価格の2次電池が将来的に実現したときこそ、EVにとっての道が開けるのではないだろうか」と付け加える。

 日産は、リーフを年間5万台生産する計画だ。同社は、電気自動車の普及のペースは、少なくとも導入当初は緩やかだろうと見ている。しかしその後は、リーフのようなEVがガソリンエンジンを搭載する自動車に次ぐ2番手の製品分野に成長し、その状態がしばらく続くと予測する。Perry氏は、「われわれは、企業の未来をEVだけに預けているわけではない。しかし、2030年、2040年、2050年といった将来のある時点で、自動車業界が転機を迎えることは確かだ。誰もそれを避けることはできない」と述べている。

(Design News誌、Charles J Murray)

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