マイクロソフト主催の学生向け技術コンテスト「Imagine Cup」。ポーランドで行われる世界大会へ向け、日本代表チームは旅立った
――日本代表チームはいまポーランドへ向かっている。彼らが目指すのは、2010年7月3〜8日(現地時間)の6日間、ポーランド・ワルシャワで開催されるマイクロソフト主催の学生向け技術コンテスト「Imagine Cup 2010」世界大会の舞台だ。
既報のとおり、日本代表としてImagine Cup世界大会行きの切符を手に入れたのは、ソフトウェアデザイン部門に出場する筑波大学付属駒場高等学校のチーム「PAKEN」と、組み込み開発部門で世界大会2度目の出場となる国立東京工業高等専門学校のチーム「CLFS」だ。PAKENは、乗客が飛行機に持ち込む荷物の空きスペースを利用して支援物資を貧困地域に輸送するというシステムを、CLFSは日本の母子健康手帳をベースに識字率が低い地域の妊産婦・乳幼児の死亡率低下を図るというシステムを提案。両チームともに独創的なアイデアと技術力を武器に日本大会を制し、ポーランド行きを決めたわけだが……。世界の壁は想像以上に厚い。両チームが出場するソフトウェアデザイン部門と組み込み開発部門でのここ最近の実績を見ても、残念ながら日本代表チームはいい結果を残せていない。
世界大会では予選ラウンドで勝ち残ったチームが集結する。今回の世界大会 組み込み開発部門を例に挙げると、アメリカ、イギリス、インド、インドネシア、韓国、タイ、台湾、中国、ドイツ、日本、フランス、ブラジル、ブルガリア、ルーマニア、ロシアの全15チームが世界大会の舞台で戦うこととなる。世界大会での選考は3つのフェイズで行われ、それぞれ20分間のプレゼンテーションと作品のデモンストレーションを行う。第1フェイズでは、上位12チームが第2フェイズへ進出し、第2フェイズではこれが一気に半分の6チームに絞り込まれる。そして、ファイナルの第3フェイズで上位3チームが決定する。
こうして見ると第2フェイズへはそれほど苦労しないで進出できそうに思えるが、昨年の結果からも分かるとおり、初戦突破ですらそう簡単ではない。一体、第2フェイズに進出できるチーム、ファイナルに残れるチームの強さとはどこにあるのか?
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⇒ | Imagine Cup 2010 Finalists! |
筆者は昨年行われたエジプト大会に同行し、世界大会ファイナルに進出するチームのレベルの高さを目の当たりにした。作品の出来栄えもさることながら、プレゼンテーションの最初に美しいショートムービーを流したり、審査員を巻き込みながら展開する“魅せる”プレゼンテーション、そして質疑応答での堂々とした受け答え(想定の質問をさせるようなテクニックもあった?)、すべてにおいて“質の高さ”がうかがえた。また何より、自分たちの作品をアピールしようという力強さ、“自信”が彼らには備わっていたように思う。
さらに驚かされたのは、国や企業からの手厚い支援を受けて世界大会に臨んだチームもあったことだ。当然、最後は学生たち自身の力量で勝敗が決まるわけだが、長い準備期間の中でチームへの“サポート体制”があるのとないのとでは完成度が違ってくる。
“質・自信の差”“サポートレベルの差”は当然、マイクロソフト(日本法人)も認識している。そこで、今年から日本代表チームへの支援強化として、「学生サポート研修」を5〜6月にかけて実施。プレゼンテーション研修、ビジネス・技術面からの質疑応答の予行演習、技術フィードバック、そして英語研修など、マイクロソフトのエンジニアや経営コンサルタントのほか、過去3回のImagine Cup世界大会の出場経験を持つ東京大学 知の構造化センター 特認助教 中山 浩太郎氏を講師として招き、9回もの研修が行われた。「コンテストという形で世界の舞台で競い合うという経験もないだろうし、そもそも学校という枠組みを超えたこうした経験もまだ少ないだろう。まずは、現段階の実力で萎縮せずに自信を持ってプレゼンテーションに臨めるよう支援したい」(関係者)。
世界大会での選考基準を見てみると(ここでは組み込み開発部門を例に)、全14項目(100点満点)中、半分の7項目(50点)が主にプレゼンテーションスキルに関する基準となっている。例えば、「○○について明確に説明する能力」「プレゼンテーションは人を引き付けたか、説得力があったか」など。学生向けの技術コンテストとはいえ、プレゼンテーションスキルにかなり重点が置かれていることが分かる。ここを短期間で集中的に磨き上げることが今回のサポート研修の一番の目的といえる。
また、世界大会では、各国のベンチャーキャピタル、会社のオーナー、エンジニア、教職員など産学の有識者が審査員を務める。当然、質疑応答では技術に関するものだけではなく、ビジネスとしての可能性・実現性などさまざまな質問が飛び交うことが予想される。質疑応答で聞かれるであろうポイントをある程度予測、もしくはあえてあるポイントに質問を向けさせるような高度なテクニックも世界の上位を狙うには必要になってくるだろう。学生にここまで求めるのは少々酷(?)なようにも思えるが、世界大会で好成績を残すにはこうした“勝つためのプレゼンテーションスキル”が求められる。
あきない総合研究所 代表取締役 吉田 雅紀氏とGMOベンチャーパートナーズ ビジネスエンハンスメントパートナー 蔀(しとみ) 謙二氏を講師として招き行われた第1回学生サポート研修では、「どうやってビジネスとして展開するのか」「このビジネスで得た利益を次にどう生かすのか? ビジネスサイクルとしての視点も必要ではないか」など、主にビジネスの視点に重きを置いた厳しい質問がなされたほか、「プレゼンテーションは一番伝えたいポイントに時間を割くように」「自分たちのプレゼンテーションをビデオに撮って分析すべき」など、プレゼンテーションのコツについてもアドバイスがなされ、学生たちは必死に耳を傾けていた。
さらに、マイクロソフト 調布技術センターで行われた第7回研修では、同社 最高技術責任者 加治佐 俊一氏のほか、日本市場向けにWindowsやOfficeといった同社を代表する製品の開発に携わっているエンジニア多数が審査員として参加(中にはビル・ゲイツ氏にプレゼンテーションをしたことのあるエンジニアも数名いた)。これまでの研修の中でも一番といえるくらい緊迫した雰囲気の中、世界大会本番を想定し、英語でのプレゼンテーション(ならびにデモンストレーション)、質疑応答が行われた。両チームともにこれまでの研修の成果をきちんと反映し、ブラッシュアップして臨んでいたが、特に印象的だったのは英語での質疑応答。臆することなく英語でコミュニケーションを取ろうとする前向きな姿勢は感動すら覚えた。ここでの質疑内容を振り返ってみると、主にシステムの実現可能性やセキュリティ面などが多く、関係者は「複数回行ってきた学生サポート研修から、質問の傾向が見えてきた」と手応えを感じている様子だった。
Imagine Cup日本代表チームに対し、今回初めてこうした研修が行われたわけだが、本番前の、このタイミングでの“気付き”“反省”は最終調整の絶好の材料となったに違いない。
――これまでにない手厚いサポートを受け、2010年7月2日、彼らはポーランドへ旅立った。研修の成果を世界大会の大舞台でどこまで発揮することができるのか? 彼らの活躍に期待したい。なお、@IT MONOist「組み込み開発」フォーラムでは、組み込み開発部門で2度目の世界大会進出を決めた国立東京工業高等専門学校のCLFSにフォーカスし、世界大会終了まで現地から彼らの活躍をお伝えしていく。
チーム名 | 所属 | メンバー(敬称略) | 作品名 | 選択テーマ |
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CLFS | 国立東京工業高等専門学校 | 有賀 雄基、久野 翔平、Lydia LING YIENG CHEN、(松本 士朗) | Electronic Maternal and Child Health Handbook | 幼児死亡率の引き下げ、妊産婦の健康の改善 |
PAKEN | 筑波大学付属駒場高等学校 | 石村 脩、関川 柊、永野 泰爾、金井 仁弘 | Bazzaruino | 極度の貧困と飢餓の撲滅 |
表1 Imagine Cup 2010 世界大会に出場する日本代表チーム |
次回、ポーランドへ旅立つ前日(2010年7月1日)、マイクロソフト(日本法人)本社で行われた壮行会、そして、Imagine Cup世界大会開会式(現地時間:2010年7月3日)の模様をお伝えする予定だ。ちなみに、マイクロソフト アカデミック ポータルで日本代表応援ページがオープンしている。Imagine Cup日本チームのTwitterアカウント「@ImagineCupJP」、およびUstreamで事前情報や世界大会の模様を配信予定だという。こちらも併せてご覧いただきたい。(次回に続く)
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以下、Imagine Cupって何? という方のために「東京高専が2度目のImagine Cup世界大会へ」から一部抜粋・再編集し、Imagine Cupの概要について紹介する。
Imagine Cupとは、マイクロソフトが主催する世界中の学生を対象にした技術コンテストのことで、これまでスペイン、ブラジル、日本、インド、韓国、フランス、エジプトの各都市で世界大会が開催され、今年のポーランド(ワルシャワ)大会で8回目を迎える。毎年予選・審査を勝ち上がった各国の代表チームが世界大会の舞台で技術を競い合う。
過去6大会までは、毎回さまざまなテーマが与えられ、その課題に対し、学生たちが技術力を競い合ってきたが、昨年のImagine Cup 2009 エジプト大会から「テクノロジを活用して、世界の社会問題を解決しよう」がテーマとして掲げられるようになった。ここでいう“世界の社会問題”とは、国連ミレニアム・サミットで「現在世界で最も懸念すべき課題」として挙げられた8つの項目―「ミレニアム開発目標(MDGs)」―を指す。
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⇒ | ミレニアム開発目標−外務省 |
また、Imagine Cupではさまざまな部門が設けられている。今年は各部門の統廃合もあり、昨年の9部門から以下の5部門となった。各部門にエントリした学生らは、現実に起きている“世界の社会問題”に目を向け、ミレニアム開発目標からテーマを選択し、ITを用いて地球規模の難問にチャレンジしなければならない。
@IT MONOist編集部が注目する組み込み開発部門では、当然のことながらハードウェア/ソフトウェアの双方の技術力を基に、課題を解決するソリューションを構築しなければならない。規定では、ハードウェアとして「eBox-3310A-MSJK」を、ソフトウェアとして「Windows Embedded CE 6.0 R2」「Windows Embedded CE Platform Builder」「Windows Embedded CE IDE」を利用することとある。この部門で一番問われるのは、提案するソリューションがきちんと組み込みシステムの特性を生かしたものになっているかどうかだ。実際、「組み込みベースである必要性」「組み込みシステムの特性(潜在的な力)が生かされているか」などが世界大会 組み込み開発部門の審査基準に含まれている。また、最も参加者の多いソフトウェアデザイン部門では、近年、ハードウェアを組み合わせたソリューションを提案するチームもあるため、やはり「組み込みならでは」「組み込みでなければ」というポイントを明確に打ち出せるかどうかが、組み込み開発部門で勝ち残るためには重要だろう。
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⇒ | Imagine Cup 2010 |
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