世界大会のラウンド開始、東京工業高等専門学校のチーム「CLFS」が世界の大舞台に。彼らの激動の一日をレポートする
エジプト カイロで開催された「Imagine Cup 2009」。開催2日目となる2009年7月4日(現地時間)、国立 東京工業高等専門学校のチーム「CLFS」と世界大会2度目の進出となる同志社大学と京都大学の混合チーム「NISLab++」の戦いの火蓋が切って落とされた。
本稿では引き続き、組み込み開発部門に出場する「CLFS」にフォーカスして、初戦となる第1ラウンドの模様と、組み込み開発部門の初日の結果をお伝えする。世界の大舞台で彼らは一体何を感じたのだろうか?
第1ラウンドは2部構成で、はじめにプレゼンテーションとQ&Aを行い、少し時間を空けてからショーケースにてデモンストレーションとQ&Aを行うこととなる。次のラウンドに進出できるのは世界大会進出を決めた20チーム中12チーム。続く第2ラウンドはQ&Aのみで選考され、その日のうちにファイナルに進出するTOP6が決定する。
まずは組み込み開発部門、世界大会での審査基準を確認しておこう(表1)。
基準 | ポイント | |
---|---|---|
策定した解決策によって対処する問題を明確に表現する能力 | 0-5 | |
解決策とその解決策による提示した問題への対処方法を明確に表現する能力 | 0-5 | |
競合他社、代替案、流通、販売促進、価格設定の市場分析を明確に表現する能力 | 0-5 | |
技術コンポーネントとその目的が明確に表現されているか | 0-5 | |
データフローとインターフェイスの操作が明確に指定されているか | 0-5 | |
PowerPointのスライドやそのほかのドキュメントがよく練られていて実用的であるか | 0-5 | |
この解決策には組み込みベースのソリューションが明らかに必要であるか | 0-10 | |
プレゼンテーションが人を引き付ける専門的な発表であったか | 0-10 | |
デモンストレーションに目的どおりの効果があったか | 0-15 | |
プロジェクトのデザインと構成が優れているか | 0-5 | |
プロトタイプでデザインされたデバイスを製造することは可能か | 0-5 | |
組み込みシステムを最大限に活用しているか | 0-5 | |
Windows Embedded CEを最大限に活用しているか | 0-5 | |
デモンストレーションが人を引き付ける説得力のある発表であったか | 0-15 | |
表1 世界大会の採点基準 |
予選大会の審査基準よりも項目が細かくなり、より高度なプレゼンテーションと効果的なデモンストレーションができるかが勝敗を分けることとなる。
CLFSの初戦の模様をお伝えする前に、チームメンバーを紹介しておこう(表2)。
氏名 | 専攻/学年 |
---|---|
長田 学(おさだ まなぶ) | 専攻科機械情報システム工学専攻 2 年 |
佐藤 晶則(さとう まさのり) | 専攻科機械情報システム工学専攻 2 年 |
宮内 龍之介(みやうち りゅうのすけ) | 専攻科機械情報システム工学専攻 2 年 |
有賀 雄基(あるが ゆうき) | 情報工学科 5 年 |
表2 チームメンバー |
第1ラウンドの前夜は「ついに開幕『Imagine Cup 2009』−いざ決戦の地へ」でもお伝えしたように開会式が催され、ホテルに戻ったのが夜中。当初、「戻ってから明日の最終準備します」とCLFSの佐藤さんが語っていたが、コンディションを整えるため、その日はすぐに体を休めて、翌日の早朝から第1ラウンドに向けての最終準備に取り掛かったという。
なお、前回も紹介したが、彼らが提案するソリューションは、日本の母子手帳をヒントにした「The Electronic Maternal and Child Health Handbook」。『乳幼児と妊産婦の死亡率低減』を図るもので、「eBox-4300」に接続されたカメラ、体重計、体温計、血圧計、メジャー(胸囲などを測る)を用い、ヘルスチェックを行うというものだ。各センサで計測したデータを記録して、グラフ表示する機能や、例えば乳幼児の体温が低かった場合の対処方法をスライド形式でディスプレイに表示する機能などを備えている。「発展途上国などでは識字率の問題もあるので、あえて紙芝居形式のスライドを見せる手法で、応急措置のやり方を指示するようにした。メニューアイコンでも文字を使わずに画で機能を示すように工夫してある」とCLFSの有賀さんが説明してくれた。
第1ラウンド前半は、若干緊張した様子を見せながらも壮行会以上にバランスの取れたよいプレゼンテーションが行えていたように感じた。後半のQ&Aについては、プレゼンテーションだけでは彼らのソリューションで使用するデバイスのイメージが審査員に伝わりづらかったようで、「どんなものなのか?」「自分達が開発したデバイスがどこにあるのか?」「コストは?」といった質問が投げかけられていた。実際、彼らのプレゼンテーション資料の中に、コストやデバイスのイメージなど盛り込まれていたが、審査員にうまく伝わっていなかったのかもしれない。また、Q&Aの時間中に停電が2回も発生するというアクシデントに見舞われたが、暗闇の中、気転を利かせてノートPCを手に持ち、スライドを審査員に見せながらQ&Aに答えていた。
第1ラウンド前半を終え、緊張から開放されようやく笑顔を見せはじめたCLFSの面々。第1ラウンド後半のデモンストレーションに気持ちを切り替え、互いに励ましあいながら「ポジティブにいこう」と声を掛け合っていた。また、これまでの準備期間、彼らに英語を叩き込んできたラモナ リン コルソン 渡辺先生は第1ラウンド前半のプレゼンテーションを振り返り「客観的に見て本当によくできた。当初は、言葉がすぐに出なかったり、重要なポイントを抜かしてしまったりと苦労もあったが、いまは本当に自慢できる」とコメントしていた。
第1ラウンド後半のショーケースでは、各ブースを審査員が巡回し、デモンストレーションとQ&Aが行われる。審査員が来るまでの間、策を練り、新たに彼らのデバイスを小型化した将来イメージの画を用意。さらにスライドを修正するなど、準備に余念がなかった。疲れを見せながらも懸命に準備を進めている彼らの姿に心を打たれた。
ショーケースでのデモンストレーションを担当するのは佐藤さんと有賀さんの2人。多少緊張感も取れていたのか、先ほどのプレゼンテーションよりもハキハキとした大きな声で、彼らのソリューションをアピールすることができた。
第1ラウンド前半のプレゼンテーションで質問されたデバイスや各機能についてもデモンストレーションを実際に目の前で見せることできちんと理解してもらえた様子だった。また、Q&Aでは「Windows Embedded CEでどのような機能を追加しなければならなかったか」「特殊なドライバを使ったか」「測定データの保存形式」などの質問が投げかけられていたが、佐藤さんと有賀さんを中心に特に戸惑うことなく回答していた。客観的に見ても非常に好印象を与えていたのではないか? と筆者は感じていたが結果は果たして……。
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