車載情報機器向けの「Atom」プロセッサ、次世代製品でアーキテクチャを刷新

» 2010年06月17日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 米Intel社は、車載情報機器(In-Vehicle Infotainment:IVI)向けのプロセッサ「Atom」の次世代品(開発コード名:Tunnel Creek)と、同プロセッサを用いてIVIの機能を1枚のモジュールに搭載する「ICM(IVI Complete Module)」の詳細を明らかにした。これらの製品は、2010年10〜12月期の市場投入が予定されている。

 Tunnel Creekの最大の特徴は、従来はプロセッサと組み合わせて用いる専用チップセットに組み込まれていたグラフィックス回路などの周辺機能を、プロセッサ側に内蔵したことである。具体的には、グラフィックス回路、ディスプレイコントローラ、オーディオ機能、メモリーコントローラ、SPI(Serial Peripheral Interface)、LPC(Low Pin Count)などを内蔵している。また、PCI Expressのインターフェース(x4を1チャンネル)も内蔵しており、これを用いてさまざまな機能を備えるコンパニオンチップ「IOH(I/O Hub)」と接続することで、プロセッサに内蔵されていない機能を追加することが可能となっている。

 なお、Intel社は、Tunnel Creekを用いるプラットフォームを「Queens Bay」と呼んでいる。Tunnel CreekとQueens Bayは、動作温度範囲が−40〜85℃であるなど、車載半導体向けの品質規格AEC-Q100に準拠しているものの、IVI向けだけでなく、産業用機器や情報表示端末といった幅広い組み込み機器の用途で展開される予定だ。

 Intel社は、2009年3月から、IVI向けAtomプロセッサの第1弾製品となる「Z510PT/Z520PT」を販売している。Z510PT/Z520PTの場合、パソコンと同様に、グラフィックス回路などの周辺機能を組み込んだ専用のチップセットを組み合わせて利用することになる。Z510PT/Z520PTでは、IVIを開発する際、機器内に搭載しなければならないICの数が多くなるということが課題として挙げられていた。例えば、Atomプロセッサ、専用チップセット、タイミングコントローラ、自動車の走行システムとの間で情報のやりとりをするために用いる車載マイコンという4チップ構成になることもあった。これに対して、Tunnel Creekは、例として挙げた4チップ構成の場合と同じ機能を、AtomプロセッサとIOHの2チップで実現することができる。「これによって部品コストの削減が可能になる」(Intel社)という。また、同社は、Tunnel Creekと併せて用いるIOHについては、Intel社だけが提供するのではなく、Intel社以外のサードパーティ企業の参入を積極的に進める方針である。

図1 ICMのブロックダイアグラム(提供:Intel社) 図1 ICMのブロックダイアグラム(提供:Intel社) 

 Tunnel Creekは、Z510PT/Z520PTと比べて、IVIに求められる機能が強化されている。まず、BIOS(Basic Input/Output System)のブート時間を従来に比べて大幅に短縮できるようにするためのブートローダー開発キット「Trinity Lake(仮称)」を導入する。これを利用して開発したブートローダーによって、BIOSのブート時間を500ms以下まで短縮することができる。一方、グラフィックスの処理性能は、Z510PT/Z520PTを用いる場合と比べて最大で50%向上した。Intel社は、「IVIにおいて重要な役割を占めるHMI(Human Machine Interface)として、より高度なものを利用できるようになるだろう。また、IVIに要求されるグラフィックス性能が従来と同じ場合には、消費電力を低減できるはずだ」としている。

 Intel社は、Tunnel Creekの市場投入に合わせて、IVIに必要なICや電子部品などをすべて搭載したモジュール製品「ICM」を展開する方針である。図1に示したICMのブロックダイアグラムによれば、Tunnel Creek、IOH、DDR2 SDRAM、BIOS用のNAND型フラッシュメモリー、電源管理IC、イーサーネット用のインターフェースICなどが搭載される予定だ。

 このICMを用いることで、Tunnel Creekを採用するIVIは、ICMと、ICM/液晶ディスプレイ/外部との接続を行うコネクタなどを備えるベースユニット、筐(きょう)体だけで構成することも可能になる。また、IVIのプロセッサを次々世代のAtomにアップデートする場合でも、ICMを交換するだけで済むという。さらに、IVIの機能を持ったさまざまな車載機器の開発も容易になる。

 同社は、ICMの製品展開において、IOHと同様にサードパーティ企業の参入を積極的に推進する方針。そのために、ICMの規格化も急ピッチで進めている。ICMは、ボードのサイズが106mm×85mmもしくは85mm×85mmで、ボードの1辺に接続用の端子を備えている。この端子は、MXM(Mobile PCI Express Module) 2規格に準拠しており、端子数は230で検討されている。また、車載用途では、このような挿し込むタイプのモジュールを用いる場合、端子との接続を行うコネクタの部分に対して、非常に高いレベルの耐振動性能が求められる。「そうした要件をクリアするために、コネクタメーカーとも協力している」(Intel社)という。

(朴 尚洙)

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