一般のジッタ・トレランス試験は、ジッタを付加したデータを試験対象の機器に送信して、試験対象の機器が正しく受け取ったかどうかを判定しなければなりません。ここで、シリアル・インターフェイスは、受信器と送信器の両方を持つトランシーバなので、受信器で受けたデータをそのまま送信器から送り出すことができれば、外部の試験機器が送り出したデータと送り返されてくるデータとを比較してエラーの判定ができます。この受信器が受け取ったデータをそのまま送信器から送り返す機能をループバックと呼びます。図5を見てください。
受信器は、送られてきたデータ信号を同じデータ信号を基にClock Recovery Unit(CRU)で再生されたクロックのタイミングでバッファに書き込まれます。内部ロジックは自身のクロックのタイミングでバッファかデータを読み出して使いますが、このデータを送信器にそのまま送り出して送信器から送り返します。受信器で正しくデータを受け取れないと、その間違ったデータが送り返されてくるので、外部でエラーの判定ができるのです。
USB 3.0スーパースピードでは、第1回で紹介した「Link Training and Status State Machine」(第1回の図6)で記載されているようにLoopbackのステートが用意されています。このLoopbackのステートにするには、LFPSハンドシェークでリンクの確立を開始し、TSEQオーダーセットを送出してイコライザの最適化を行った後、TS1およびTS2オーダーセットを使ってLoopabackステートに遷移させなければなりません。
図6は、実際に通信を開始してLoopbackに入るまでの信号をおのおのの種類に応じて色分けして示したものです。最初の赤い櫛(くし)状の信号がLFPS、水色の部分がTSEQ、非常に短い紫の部分はTS1とTS2で、オレンジの部分がLoopbackに入っていることを示しています。このように、ジッタ・トレランス試験システムとUSB 3.0スーパースピードの被試験機器との間で、USB 3.0スーパースピードのプロトコルに従った通信を行わなければならないので、通信機器用のジッタ・トレランス試験機器であるBit Error Rate Tester(BERT)だけでは実施することができません。
送信側と受信側のクロックは独立しているので、クロック周波数に差異が生じます。またUSB 3.0スーパースピードではSpread Spectrum Clocking(SSC)を利用するために、大きな周波数の差異が生じる場合があります。こうした周波数の差異を吸収するために送信器は定期的にSKIPオーダーセットを挿入します。これに対して受信器ではSKIPオーダーセットは無視されます。
問題は、ループバックでデータを送り返す場合にも、送信器でSKIPオーダーセットが挿入されてしまうため、外部でエラーの判定をする場合、図の左側で示したようにそのままビットごとにデータを比較するとSKIPオーダーセットをエラーと判定してしまいます。従って図の右側のように、被試験機器から送り返されてきたデータの中のSKIPオーダーセットを無視するメカニズムが必要になります。これも一般的なBERTだけでは実施することができない理由の1つです。
USB 3.0スーパースピードのジッタ・トレランス試験は、Internal BERとExternal BERと呼ばれる2種類の方法が存在します。
Internal BERは、開発の初期段階では盛んに用いられました。理由は、DUTをループバックに設定する手順とSKIP機能に対応しなければならないにもかかわらず通信機器用のBERTがそのまま流用できなかったために代替処理として使用されていました。しかしながら、現在は1台でループバックの設定、SKIPオーダーセットの除去に対応する試験機器が登場しているので、External BER方式の試験が行われています。
前回と今回の2回にわたりUSB 3.0スーパースピードの物理層について解説しましたが、従来のUSB 2.0の利便性を継承しながら、5Gb/sもの高速伝送を実現するための工夫が多く取り入れられています。また試験を行うに当たっては、こうした工夫を勘案した方法が取られているために理解が困難な部分がありますが、その工夫の意味合いが理解できれば、計測結果にも高い知見が得られます。次回、最終回ではプロトコルの概要を解説します。
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