エレクトロニクス業界の最先端テクノロジーや最新動向を、インタビュー取材を通じて探っていく連載がスタート。第1回は、ユビキタスネットワークの存在感を高める無線LAN(Wi-Fi)の最新展望を、司令塔である業界団体Wi-Fi Allianceへのインタビューを基にまとめた。(編集部)
Wi-Fiでまず注目されるのは、最新規格「IEEE 802.11n」の動向だろう。802.11nはWi-Fiとして初めて、同じ周波数を使いながらアンテナを多重化して送受信するMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を採用。理論上では最大伝送速度600Mbpsとなり(日本では電波法上の制限から同300Mbps)、現行で主流の802.11a/g(同54Mbps)や802.11b(同11Mbps)と比べると格段に速い。
長らくドラフト段階だった802.11nは徐々に普及していたが、IEEEが2009年9月に規格を承認したことにより採用に拍車が掛かる。特に注目されるのは、1機種当たりの出荷量が大きく、市場に影響を与える携帯電話(スマートフォン含む)での採用だ。ちなみに2009年は約250機種の携帯電話がWi-Fi認証を取得、Wi-Fi機器出荷台数5.8億台のうち携帯電話が4分の1を占めた。
Wi-Fi Allianceのマーケティングディレクター、ケリー・フェルナー氏は「すでに19機種(2010年4月末)が802.11nの認証を得ている。2010年はWi-Fi認証を得るハンドセットの1割以上が802.11n対応になるだろう」と話す。
国内では802.11n対応の携帯電話はまだ発表されていないが、海外を見ると、韓国サムスン電子の「Wave S8500」、カナダRIMの「Blackberry Pearl 9100」など対応製品が登場している。Wi-Fi Allianceの認証製品リストによると、フェルナー氏のいう19機種のうちサムスン電子が14機種、LG電子が4機種と韓国メーカーの積極姿勢が目立つ。今後、対応製品が続々と市場投入されるはずだ。また、話題の“Androidスマートフォン”「Google Nexus One」も現状では非対応だが、ドライバの提供により対応する計画といわれる。
PCとの垣根が低いスマートフォンや一部のハイエンド携帯電話ではCellular/Wi-Fiのデュアル構成がもはや常態。既存の802.11a/b/gとの相互接続性を持ち、より高速な802.11nへの移行は時間の問題だろう。米ABI Researchは「2012年までにWi-Fi携帯電話の主流は802.11n対応になる」と予測する。
携帯電話が802.11n対応を果たすうえでネックになるのが消費電力の大きさだろう。例えば、iPhoneではWi-Fi設定をオンにしているだけでバッテリー消費が早いため、必要ないときはWi-Fi設定をわざわざオフにするユーザーが多い。この点について、フェルナー氏は「モバイル機器に向けた低消費電力仕様『WMM Power Save』を採用する機器が増え、省電力化は進んでいる」と指摘する。
WMM Power Saveでは、データ伝送のQoS制御が可能な「IEEE 802.11e」が備える伝送効率化のメカニズムを活用し、省電力化を図る。同仕様に対応したバッテリー駆動機器ならバッテリー寿命が15〜40%伸びるという。実際、前述した802.11n対応のBlackberryなどはWMM Power Saveの認証を得ている。
また、プロセス微細化、電源管理の工夫などにより消費電力を抑えたWi-Fiチップセットも登場。例えば、米Atheros Communicationsのモバイル機器向け製品「ROCm AR6002」は、待機消費電力が60μWと優秀なスコアで、データ受信時(22Mbps)も140mW以下だ。さらに同社は、データ受信時の消費電力をAR6002より20%低減したROCm AR6003も2009年末に発表している。こうした背景も考えれば、より幅広いレンジの携帯電話でのWi-Fiが採用されていくだろう。
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