消費電力や寿命などの性能面以外で、LEDヘッドライトを採用する理由となっているのが、自動車の「見映え」の向上である。LEDは、ハロゲンランプやHIDのように、電球やガラス管を必要としない発光デバイスなので、これまで実現できなかったようなデザインのヘッドライトを実現することが可能だ。
2009年12月に発表されたAudi社の高級車「Audi A8」は、ハイビーム、ロービーム、昼間点灯用のデイタイムライト、ウィンカを含めたすべての光源にLEDを用いたフルLEDヘッドライトを採用している。特に、ロービームでは、点光源として用いることのできるLEDの特性を生かし、10個の発光部をヘッドライトの下部に並べることによって印象的なデザインを実現している(写真3)。このロービームの消費電力は、1ユニット当たり40Wである。
また、ドイツBMW社なども、自動車の見映えを向上することを主な目的として、LEDヘッドライトを採用する方向性を打ち出している。
ヘッドライトは、長期的な視点からLEDの採用拡大が期待されている用途であり、現時点での採用例は非常に少ない。これに対して、すでにかなりの割合でLEDが採用されているのが、リアランプや方向指示に用いるウィンカ、メーターパネルである。
リアランプやウィンカは、自車の運転操作についての情報を他車に伝えるための表示灯であり、ヘッドライトのような照明としての機能は求められていない。また、表示色は、赤、黄、オレンジなどであり、白色LEDを用いる必要がない。これらの理由から、1980年代後半より、赤色LEDを用いたリアランプやウィンカが登場している。特に、リアランプよりも高い位置に設置されるハイマウントストップランプについては、LEDの採用比率が高い。
メーターパネルについては、警告灯の点灯用に赤色/黄色LEDが広く採用されている。また、夜間にメーターパネルを照らすバックライトなどには白色LEDを採用する車種が増えている。
現時点で、自動車システムにおいてLEDの採用が最も急速に拡大しているのが、カーナビの液晶ディスプレイのバックライト用途である。その理由は3つある。1つ目は、欧州の有害物質規制に対応するために、液晶ディスプレイのバックライトに用いられてきたCCFLを代替することである。CCFLには、水銀が用いられており、2012年からは欧州の有害物質規制の対象に入る可能性が極めて高い。2つ目は、カーナビに用いられる6〜8インチの中型液晶ディスプレイにおいて、LEDバックライトの低コスト化が進んでいることだ。3つ目は、LEDバックライトを用いた液晶ディスプレイであれば、LEDドライバICを用いた調光制御を行うことにより、表示の明るさを自由に設定できることである。
すでに、市販品の組み込み型カーナビについては、ほとんどがLEDバックライトを採用するようになっている。一方、自動車にあらかじめ設置されている純正の組み込み型カーナビについては、バックライトにCCFLを使用している製品が存在するものの、「あと数年もたてば、純正を含めてほとんどの組み込み型カーナビがLEDバックライトを使用するようになっているだろう」(LEDドライバICメーカー)という。
なお、車室内照明へのLEDの採用については、付加価値の向上を目的として高級車での採用が徐々に進むと見られている。例えば、米Ford Motor社の2010年型「Mustang」は、カップホルダー、ドアポケット、ダッシュボード、スカッフプレートなどの車室内照明にLEDを採用している(本誌Vol.8の『2010年型「Mustang」を照らすLED』を参照されたい)。
ただし、普及価格帯の車種の車室内照明にLEDが普及するのは、ヘッドライトなどよりも後になると見られる。市光工業の村橋氏によれば、「車室内照明にLEDを採用する場合、さまざまな色を再現できることや、間接照明などを実現しやすいことなどがメリットになると考えている。これらのメリットは、車室内照明にコストをかけられる高級車では活用する余地がある。しかし、普及価格帯の車種については、LEDがより低コストにならなければ採用するのは難しい」という。
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