アジャイルな判断を支える需給情報の読み方セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(3)(2/3 ページ)

» 2010年02月15日 00時00分 公開

ドタバタしない仕組みづくり

経営環境の変化は激しさを増す

 100年に一度といわれる今回の経済危機は、そう頻繁に起こることはないことを祈るとしても、ビジネスのグローバル化やデジタル化、それに伴う製品ライフサイクルの短期化など、企業を取り巻く変化のスピードは、今後増しこそすれ、遅くなることはないでしょう。

 経営を取り巻く環境の変化(プラスの側面である機会と、マイナスの側面であるリスクの双方を含む)の例を、S&OPの各サブプロセス(新規アクティビティ・マネジメント→需要マネジメント→供給マネジメント→統合された調整活動)に関連させて図示したものが図1です。

図1 S&OPのプロセスフロー 図1 S&OPのプロセスフロー

グローバル消費支出のけん引役と期待されるアジア

もはや米国の家計支出の回復は期待薄である

 米国のある戦略系コンサルティング会社のレポート(参考文献2)は、もともと膨大な借金の上に成り立っていた米国の家計部門の消費支出の減速は必至であったと指摘しています。今回の需要の急激な落ち込みは、本来は緩やかに減少していくはずのものが、リーマンショックを引き金にして、一気に急落したにすぎないというものです。

 この考え方によれば、米国の消費は、人口の高齢化と低い家計貯蓄を考慮すれば、リーマンショック以前を上回ることは期待できず、米国はもはや世界消費のけん引役を果たすことはできないという結論になります。

5大消費大国のうち、3カ国を占めるアジア経済圏

 中流をわずかに下回る所得層が10億人以上となる中国とインド。2020年までに中国はEU(欧州連合)、米国に次ぐ世界第3位の消費大国となり、インドは日本に次ぐ第5位の消費大国となると予測されるなど、アジアが新たなけん引役となるとする見方が大半を占めています(注4)。


注4:こうした見解を裏付ける資料として日本政策投資銀行が2009年10月に発行したレポート(139-1)が無償で閲覧できます。レポート内で、IHS Global Insightの2005年、2000年の調査資料を引用し、同様の見解を示しています。


グローバル化に拍車を掛ける市場としてのアジア

 ここで、グローバル化とは何かについて、再確認しておくことは意味のあることでしょう。「グローバル化」とは、単一の世界市場の創出へと向かう国際ならびに国内経済における変化を意味します。

 貿易と資本移動の自由化、規制の緩和、通信と輸送コストの低下、バリューチェーンの諸機能の地球規模での分散を実現するIT(情報技術)、低賃金国における大量の労働力などが、グローバル化のドライバー(推進役)となっていました。これらに加えてアジアの新興国の市場としての重要性の相対的な向上が、グローバル化に拍車を掛けることになっているのです。

グローバル・バリューチェーンがつながっていない

 国内の単一市場に、国内にある自社の単一工場から物を供給するといった単純なバリューチェーンの構造が、例えばEU地域の西欧の市場へ中東欧の国々で製造した製品を流通させるという国境をまたがったリージョナライゼーション(地域化)や、米国や欧州の市場に対して中国や東南アジアで製造した製品を輸出するグローバル化によって、バリューチェーンの機能が分断される状況が発生しています。

 市場としての中国やインドといったアジアの新興国の重要性の高まりに対応するべく、現地生産比率を高めるとする、先に取り上げた日本の製造業のオフショア戦略も、コアとなる製品開発や高付加価値の部品製造拠点を日本国内に維持するといういわゆる「ブラックボックス化」戦略と相まって、この「リージョナルそしてグローバルベースのバリューチェーンの分断の流れ」を食い止めることにはならないといえます。 

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