組み込みソフトウェア・クライシスをどう乗り越える?Windows Embeddedセミナーレポート(3)(2/2 ページ)

» 2010年01月15日 00時00分 公開
[八木沢篤,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

 続いて、東京高専 情報工学科 教授 松林 勝志氏による講演「組み込みシステム開発マイスターの育成教育−マイスター・学生教育士の認定制度による学科構成の枠を越えた人材育成−」の内容を紹介する。

 組み込みシステム教育・人材育成について、専修大学とはまた違った取り組みを行っている。


組み込みシステム開発マイスターの育成教育−マイスター・学生教育士の認定制度による学科構成の枠を越えた人材育成−

――東京高専は文部科学省の教育プロジェクト予算(注)を得て、組み込み開発にかかわる人材育成を行っている。日本初をうたうWindows Embedded CE開発に特化した電算室を立ち上げ、さらにマイコン、携帯端末、FPGAの開発学習ができ、基板設計・加工・はんだ付けも可能な総合的な組み込み開発学習環境を整えている。また、「組み込みシステムマイスター」と「学生教育士」という資格認定制度を導入し、学生のモチベーションを高めるための取り組みが行われている。

※注:文部科学省の教育プロジェクト――「『質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)』は、大学設置基準等の改正等への積極的な対応を前提に、各大学・短期大学・高等専門学校から申請された、教育の質の向上につながる教育取組の中から特に優れたものを選定し、広く社会に情報提供するとともに、重点的な財政支援を行うことにより、わが国全体としての高等教育の質保証、国際競争力の強化に資することを目的としています」(※参考:文部科学省ホームページ)。



 「高専は、実践的技術者の育成を目的にしている。しかし、“組み込み教育”という観点でいうと、先進的な高専もいくつか存在するものの、全体的にあまり進んでいない」(松林氏)と、高専の現状について語る。

 そのような状況の中、文部科学省の教育プロジェクト予算を得て、先進的な取り組みを行っている学校の1つが東京高専だ。

松林 勝志氏 画像10 東京高専 情報工学科 教授 松林 勝志氏 
教育GP「組み込みシステム開発マイスターの育成教育」代表、高専プロコン実行委員。また、昨年の「Imagine Cup 2009」で東京高専チームを世界大会に導いたのも松林氏である

 松林氏は「組み込みシステム(ハード/ソフト)の不具合を減らすには、技術者のスキル向上が最重要である」と述べ、「必要な力を持った組み込み系技術者の育成が急務である」と高専の担うべき役割について説明した。

 しかし、全国の高等教育機関の情報工学科系のカリキュラムを見てみると、いわゆるSEを育成する内容がほとんどであるという。「全国の情報工学科でカリキュラムを見直して、組み込み系の教育内容を入れていかないと、組み込み分野における深刻なエンジニア不足は解消されないだろう」と松林氏は言及した。

 こうした背景から東京高専では、組み込みシステム開発技術者育成のために、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「事故例を収集・分析する力」「環境チェックの力」の4つを重視したカリキュラムを作成。さらに、卒業証書とは別に組み込みシステムマイスター、学生教育士という2つの認定制度を設けているという。

 組み込みシステムマイスターとは、学習意欲の高い学生のスキルをさらに伸ばすために設けられた認定制度。演習を含む講義の受講と具体的なプロジェクトを複数こなし(全体で2年間)、さらに審査により一定水準以上の評価を得た学生に授与される称号だ。そして、学生教育士とは、TA(Teaching Assistant)として一定以上の活躍をした学生に対して贈られる称号を指す。松林氏は「組み込みシステム開発は、知識・技術が複合領域にわたるため、所属学科以外の分野の学習が必要になる。当然教員による講義もあるが、通常の講義終了後に学生が授業の補助を行い、互いに教え合うという取り組みも行っている」と説明する。


 東京高専では、こうした取り組みを通じ、人材不足が深刻で従来の学科構成の枠組みでは難しい組み込みシステム技術者の育成を行い、そして、学習意欲の高い学生をさらに伸ばす“伸びこぼし対策”を実践している。

 東京高専が行っている具体的な組み込みシステム開発技術者育成カリキュラムは、以下の4つに分類される。

  1. Hardware(I/O) Level
  2. Porting Level
  3. Application Level
  4. FPGA(SoC開発)※2010年度から開始

 「全国の学校を調査し、カリキュラムを作成した。当初は『マイコンのI/Oを直接操作するハードウェアレベル』『OSとともに組み込まれるポーテイングレベル』『OSが組み込まれた携帯端末の開発を行うアプリケーションレベル』の3つを計画していたが、調査の結果、『FPGA開発』の必要性を認識し、新たに導入する方針が決まった」(松林氏)。

「Hardware(I/O) Level」「Porting Level」「Application Level」「FPGA(SoC開発)」 画像11(左) 「Hardware(I/O) Level」「Porting Level」/画像12(右) 「Application Level」「FPGA(SoC開発)」

 「今年度は上記、『Hardware(I/O) Level』と『Porting Level』を実施。参加希望者約160名から選考し、43名の学生が取り組んでいる」(松林氏)。これらプロジェクトをこなし、審査会で合格した学生に組み込みシステムマイスターの称号が授与される。

東京高専の組み込み電算室

以下は、充実した実習環境の様子。Windows Embedded CE開発環境が1人1台ずつ用意されているほか、カリキュラムの開発学習、基板設計・加工・はんだ付けも可能だという。

組み込み電算室(1)組み込み電算室(2) 画像13(左) 組み込み電算室(1)/画像14(右) 組み込み電算室(2)

組み込み電算室(3)組み込み電算室(4) 画像15(左) 組み込み電算室(3)/画像16(右) 組み込み電算室(4)



そのほかの講演

 以下、本稿で取り上げ切れなかったそのほかの講演について簡単に紹介する。

組込みスキル標準(ETSS)の活用事例

 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)/ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC) 渡辺 登氏が登壇。組み込みソフトウェアの大規模化、それに関連する品質の問題を挙げ、ETSSによるスキルマネジメントの重要性を語った。ETSSにより“見える化”したエンジニアのスキル状況を、その先の施策に生かすことが大切だという。講演では実際の導入事例がいくつか紹介された。


組込み技術者の育成と評価方法について〜ETEC組込みソフトウェア技術者試験の活用と事例〜

 サートプロ 代表取締役/社団法人 組込みシステム技術協会 ETEC運営事務局 近森 満氏が、@IT MONOistの連載「“組み込み力”向上! ETEC対策ドリル」でも取り上げているETECによる“組み込みソフトウェア開発に必要なスキルの可視化”について講演。試験の活用と採用企業の事例を披露した。


アカデミックソリューションのご紹介とWindows CE開発プラットフォームのご紹介

 東京エレクトロン デバイス 河端 麻紀子氏とアイウェーヴ・ジャパン 代表取締役社長 菅野 治氏が登壇。東京エレクトロン デバイスが手掛ける大学・教育機関向けソリューションと、アイウェーヴ・ジャパンが提供するi.MX27アプリケーション・プロセッサを搭載したWindows Embedded CE対応の開発プラットフォームが紹介された。

Windows Embeddedと組み込み開発者コミュニティ「エンベデッドフォーラム」のご紹介

 マイクロソフト OEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャ 松岡 正人氏が登壇。Windows Embeddedの全体像とロードマップを紹介。さらに、産学連携・交流の活性化を目的に組織されたコミュニティ「エンベデッドフォーラム」の役割について説明した。現在、20社以上の企業と10名の教職員で構成されているという。

渡辺 登氏近森 満氏 画像17(左) 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)/ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC) 渡辺 登氏/画像18(右) サートプロ 代表取締役/社団法人 組込みシステム技術協会 ETEC運営事務局 近森 満氏

河端 麻紀子氏菅野 治氏 画像19(左) 東京エレクトロン デバイス 河端 麻紀子氏/画像20(右) アイウェーヴ・ジャパン 代表取締役社長 菅野 治氏

松岡 正人氏 画像21 マイクロソフト OEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャ 松岡 正人氏
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.