ETロボコンに欠かせないものの1つ、それは華やかな女性参加者達の存在だ。彼女たちは日々の業務でどのような思いを抱えているのだろう。
今年で5年目を迎えたETロボコン(ETソフトウェアデザインロボットコンテスト)。年々参加者が増加していく中でよく目にするのは、男性エンジニア顔負けの活躍をしている女性エンジニアの存在だ。
そこで今回は、ETロボコンに参加している女性エンジニアの方々4人に集まっていただき、ETロボコンに掛ける意気込みや日々の業務の中で感じているホンネの数々をざっくばらんに語っていただいた。
女性は「妊娠」「出産」など、男性との身体的性差による仕事への影響を避けられません。よってその現状を理解するためにも、今回はあえて「女性エンジニア」と記載します。
今回お集まりいただいたのはETロボコン2009の東海地区で活躍している4名の女性エンジニア。カッコ()内は社名、チーム名。表記は五十音順
伊夫伎 祐布子さん(オムロンアミューズメント、頭文字E/嗚呼!奥町ラジコン部)右上
伊夫伎さんは昨年のチャンピオンシップ大会の時期(11月)に嗚呼!奥町ラジコン部のメンバーだった旦那さんと結婚し、ETロボコンに参加。今年も引き続き夫婦で参加している(今年はRCXとNXTの2部門に参加。頭文字EがRCX、嗚呼!奥町ラジコン部がNXT )。仕事では集計システムのプロジェクトの一員で、プロジェクトリーダーを務めることもあるという。また趣味のバイオリンではアマチュアオーケストラのコンミス(コンサートミストレス)を務めている
酒井 英子さん(アドヴィックス、HELIOS)左上
社内の若手社員を中心に結成されたHELIOS(ヘリオス)のチームリーダーを務めている酒井さん。ETロボコンには2006年から参加しており、昨年度は東海地区大会でモデル/走行/総合部門の3冠、チャンピオンシップ大会で総合優勝(全国1位)に輝いた。仕事ではデンソー入社以来、自動車の制御ブレーキに組み込まれるソフトウェアの開発に従事。現在はアドヴィックスに出向し、オブジェクト指向やUMLを適用したパイロットプロジェクトの一員として働いているという
笹竹 実幸さん(電翔、ETロボコン東海地区運営委員)左下
昨年度からETロボコン東海地区の運営委員として受付係などを担当している笹竹さん。参加者、スタッフの方々のロボコンに掛ける熱心さに惹かれ、今年も引き続きスタッフとして参加している。仕事では病院の医療情報システム開発部門に所属。大学では社会学を専攻(主に女性学の分野などを研究)しており、プログラムは入社後にVB6を学んだ(現在はオラクルの「PLSQL」やJava、ASPなどを学んでいる)という
渡邉 真由美さん(明電システムテクノロジー、サヌック)右下
2007年からサヌックのメンバーとしてETロボコンに参加している渡邉さん。ETロボコン自体は新入社員のころから研修で「LEGO Mindstorms RCX」を用いたライントレース走行の課題を行っていたこともあり、知っていたという。2007年に同じ課の若手メンバー3人で参加して以降、その後も成り行きで参加し続けて早3年とのこと。昨年はチャンピオンシップ大会に出場し、モデル部門1位、総合3位の好成績を残している
聞き手 上口 翔子(@IT MONOist編集部)
――それではまず最初に、皆さんがソフトウェアエンジニアを目指したきっかけを教えてください。
伊夫伎さん 私は不思議な縁で、実は農学部を出ていているんです(現在の仕事に直接結びつく専攻ではなかった)。農学部からの就職だと食料品関係の会社が多い(王道)ですが、就職活動の時期に食中毒(O-157)が流行っていて。また、どちらかというとほかのスキルを目指してみたいなという思いがあったんです。小さいことから生徒会長や大学のサークルで副団長などリーダーシップを発揮する機会が多かったので、その経験を生かせる仕事をしたいな、と。いろんな会社を受けていましたね。
伊夫伎さん そうしたら今の会社を受験したときに、開発をやってみないかといわれて。何でかは分からないのですが、たまたまSPIが良かったのか何かで、合格したんです。だからこんなチャンスめったにないと思って目指したのがきっかけで、受動的な動機でしたね。でも始めてみて、すぐに楽しいなと思いました。というのは英語が好きだったので、ソフトウェアって外国語みたいなものだなぁと思って、そこからはもう、すごくはまって今に至るという感じです。
渡邉さん 私は最初、ソフトウェアではなくハードウェアを開発する会社に就職したいと思っていました。ソフトウェアは学校で苦手意識が高かったので。しかしハード系の会社を受けていたらうまくいかず、落ち込んでいたときに研究室の教授にいまの会社を受けてみないかといわれて、よくよく考えてみたら、電気回路も得意ではないのでソフトの方が頑張ればできるかなと思って、受けたら受かって、いまに至ります。
笹竹さん 私は大学で社会学を専攻していたので、文系出身のプログラマです。現在は医療情報システム(病院のWebアプリケーション)を作っているので、組み込みではありません。(入社した)きっかけは、就職活動の要領が分からなくて、それで受けたら縁があって受かったので、いまは3年目ですが、いていいのかなぁという気持ちが残りつつやっています。
酒井さん 入社したきっかけは、もともと短大で電子系を専攻していて、情報にも触れたり、ハードよりなことを勉強していたのですが、そこで(短大で)相撲ロボットやマイクロマウス(迷路を探索する)を研究している先生がいて、少し教わって興味を持ったのが始まりです。調べてみたら情報系の工学部があるのを知り、大学に編入しました。大学ではソフトを組んで何かを動かすということを学び、それが仕事にできるかどうかは考えていなかったですが、ちょうどいいタイミングで興味を持っていた会社の募集があったので受けました。
――ソフトウェア開発の仕事をしていて達成感/充実感を得るのはどんなときでしょうか?
酒井さん 納得のいく(機能要件と品質を満たした上で、後から変更し易い)設計ができて、それに対して後から使う人が「使い易いなぁ」とか「いいソフトだ」といっているのを聞くと“やった!!”という達成感がありますね。
酒井さん 後は上司が自分を認めてくれていて、自分が会社に貢献できる位置にいると感じたときです。いまのプロジェクトがそうですが、プロジェクトを始めるとき、また続けていくに当たって、上司のバックアップと期待があったんです。厳しい状況でも、期待と支えがあったのでなんとしてもやり遂げたいという思いで乗り越えることができたと思っています。
笹竹さん 先ほどもいいましたが、私は文系出身なので、コンピュータやプログラミングを専門にやってきた方とはやはり基礎的な知識の量が違います。だから、この会社に居てもいいのかと迷うときもあります。でも、そんな私でもモノづくりに携わることができて、作った製品がお客様の役に立っていると分かると、達成感を得られると同時に技術者としての自覚が芽生えますし、それが次の仕事の品質を上げようという気持ちにつながって、完成したときさらに満足感を得られると思っています。
伊夫伎さん 私はいまプログラミングを離れてテーマ管理の仕事をしているので、達成感を感じるのは製品をリリースする時ですね。開発中は、要件に合ったより良い機能を検討したいと思うが故に、スケジュールが遅れがちになったり、仕様書に抜けがあって、開発者間で仕様の食い違いが起こって手戻りが発生したりと、理想どおりにはいきません。だから、満足のいく仕様で、スケジュールを圧迫する課題をすべてクリアして、品質評価をすべて合格して、お約束したどおりの期日に仕上げる、ということが、並大抵の努力でできない分、製品をリリースするときは、なんともいえない達成感がありますね。
渡邉さん 私は、期限どおりに仕様を満たすものが作成できたときです。達成感とはちょっと違いますが、前は理解できていなかったこと(コードなど)が、理解できるようになったときには成長したなと思えてうれしいです。
笹竹さん 決められた期限よりも前に完成できたときはうれしいですよね。どうだ! みたいな。
渡邉さん 大抵期間よりも伸びてしまって「申し訳ありません」「すいませんまだちょっと」とかになるんですけどね(笑)。
笹竹さん どんどん次の仕事が来るけど、その方がたくさん仕事をしている気がして満足感はありますね。ただ後からバグが帰ってくると嫌ですね。
渡邉さん 忘れたころに修正作業がやってくるので、何か書いたか覚えてないんですよ。そういったときに限ってコメントが少なかったり。
酒井さん そのときは納得して書いていたのに、後でみたら分からないみたいなことありますよね。
――この業界は女性が少ないと聞きますが、そんな中で女性扱いされたい(またはされたくない)タイミングとは、どんなときでしょう。
笹竹さん 私の会社はおそらく体質が古いところなので、上司の考えとして男性と女性を分けるというのがあって、例えば細かい作業は女の人の方が得意だからと決め付けて、ドキュメントとか、帳票の作業を回してくるんです。でも私、細かいの好きじゃないんですよ、性格的に。男の人でも細かいのを緻密(ちみつ)にできる人いますよね。だからそういう資質で分けて欲しいのに。逆に夜など、終電で帰るときは少し怖いのに、遅いときにも平気で「飲みに行こうよ」と誘ってくるので、そこは気を使って欲しいですね。
渡邉さん 私は女性だからって特別気を使われなくても良いと思うんですが、やはり気を使ってくれるとうれしいですね。古紙とかを出しに行くとき、正直重いですし、ヒールを履いていると運びにくいし。そういうときに、「やるよ」と声をかけてくれたり、軽い方を渡してくれたりとか。また、「帰りが遅くなっちゃうから早めに帰りなね」みたいなことを言われるとやはりうれしいです。けどまぁ別になくてもいいですけどね。あとは、おみやげ配りなどもたまに頼まれますが、余ったら貰えるしいいかな、という感じでやっています。
伊夫伎さん 私は自分が入社した年が初の女性技術者を入れようという試みの年だったんです。だからおそらく(採用試験のときに)開発やらない? といわれたのだと思うのですが、分野違いで来たけど、どうだろうみたいな感じで。いまはいいですが、入社して5年は正直ひどかったですね。
伊夫伎さん 古い体質の会社ではないですけど、まずそれまで(私が入るまで)開発の女性は補助的な仕事をする人だけだったので、男性と同じ立場で仕事をする女性に皆さん慣れていなくて、同じことをやれますといっても、私じゃなくて、同僚の男の人に頼んだりとか、下手したら(私よりも)後輩に頼んだりして。ほか部署で私が何をやっているか知らない人などは、私が事務の女の子だと思って「車の鍵どこにある?」とか「コピー機どこなの?」と尋ねてきました。まぁそれは良いんですけど、やはり1番辛かったのは、自分ができる仕事で「その仕事できますよ」といっているのに「いやいやダメでしょ」といって、頼りにされないことでした。女だから“こういう仕事をする人”と決め付けられている感じがして。
伊夫伎さん ただ、入社したときに上に就いた先輩がすごく良い人で、入ったときに「君は開発者として入った子だから」といって、雑用を全然入れないでいてくれたんです。他の部署から「あの子、空いているんだったらコピー取りとかやらせてよ」という要望が来ていたみたいなんですが、そういうのを全部断ってくれていて。だから農学部で全然知識がなかった私はほかで勉強しないと付いていけてなかったと思うし、1年目としては成績が悪かったと思うんですけど、そういう割り込みを入れないでいてくれたおかげで、いままで来れたと思っています。だからそういう意味では、女性扱いされたくないですね。
伊夫伎さん また、逆に女性扱いされたいときというのは夜遅いときなどで、うちの会社はパチンコメーカーの管理作業も行っているので深夜にホールに入って行う作業があるのですが、今の部署の人たちが気を使ってくれて、その深夜作業は私はいいよといってくれてたりするので、そういうときは「女性扱いしてくれてありがとう」と感じています。
酒井さん 私の場合は普段あまりそういうことを意識せずに仕事をしているので、そういう意味では、恵まれているかなと思います。以前、ある男の先輩が「女の子をもっと入れてよ」という話ばかりをしていたのは嫌だったことはありますが。後は「強いね」の一言でくくられるときですね。男性と女性とでは体力が違うし、これでも大変なので、もう少し考えて欲しいと思うときがありますね。
伊夫伎さん それはありますね。やはり何かちゃんと仕事やろうとすると、どうしても男性以上に武装していかないと、と思うから。そこで「伊夫伎さんは大丈夫だよね」とかいわれると、そんなことないのに、と思いますね。
酒井さん 「疲れてるし、体力違うよ」と思ったりしますよね。まぁ仕事する上では、女性といわれるとやりにくいのでそういうときにはちょっと困りますけど。
――ちなみに皆さん、同じ職場に女性は何人くらいいますか?
笹竹さん 本社(静岡)にいる従業員数80人のうち、女性は10人ほどですね。
渡邉さん 同じ階には8〜10人いますが、グループ(研究開発担当の9人)では私だけです。これまで女性と一緒に仕事をしたのは、2、3回くらいで、そのときも1人、2人など。接点も少なかったです。
伊夫伎さん うちもほとんど女性はいませんね。私の部署は95%くらい男性です。開発者は私だけ。
酒井さん 私も先輩が2人だけですね。なので200人くらいいて女性は(私を含めて)3人だけです。
伊夫伎さん 私は同期で女性が2人いたんですけど、1人は結婚してすぐ2年くらいでやめて、もう1人はもともと開発の補助をやっていてその後上司から開発に転向を言われたのですが結局元に戻りたいということで、いまは開発は私だけです。やはり少数だと辛いときもありますが、皆さんはどうですか?
酒井さん どうでしょう、ずっと理系できていて、少ないのが当たり前だったので。
渡邉さん 私もそうですね。
笹竹さん 本音をいえば女ばっかりよりは少ない方がいいです。女性だけのグループは大変そうですよね。
伊夫伎さん そうですね、そういう意味でいうと私も高校から少なかったから、女性が少ない環境には慣れてますね。
酒井さん 最初はちょっと男性ばかりの教室入るのが恐かったですけどね、何となく緊張して。でも逆にいうと女の子同士の普通の話がよく分からない(笑)
ほぼ全員 あ〜分かる分かる(笑)
笹竹さん 私は学生時代、自分の学科は男女比5対5だったのですが、キャンパスが男女比9対1だったので、工学部の方に歩いていくと視界に男性しかいなくて。慣れてしまえばいいんですが、たまに女性だと珍しいのか遠慮なく見てくる人がいましたね。
伊夫伎さん うちの会社も制服の色が男女で違うので、私がいると何か違う色の制服の子だって見られます。一緒にして欲しいんですけどね。
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