バッファ傾向グラフは非常にシンプルですが、多くの関係者がかかわるプロジェクトでは大きな効果を発揮します。
これまで説明してきたように、新製品開発ではプロジェクトリーダーには権限がそれほど与えられていないのが普通です。人の増員や仕様のカットなど具体的な対策は、商品企画・メカ・電気・ソフト・工場技術・品質保証など各機能リーダーに権限があり、プロジェクトリーダーにはこれらのリーダーとのさまざまな調整が求められます。このとき現状認識が関係者間で整合していないと、意思決定は後手に回ることになります。
バッファ傾向グラフがあれば、関係者全員に現状をシンプルに伝えることができるため危機感を共有でき、関係者の意思決定を早めることが可能になります。進ちょく会議の時間も大幅に短縮できるでしょう。
1つのプロジェクトにCCPMを適用するよりも、多くのプロジェクトを同時にCCPMで管理する方がより効果が出てきます。図6は複数のプロジェクトの進ちょく状況を表したものです。このようにバッファ傾向グラフを活用することで、多くのプロジェクトの状況をシンプルに確認できるようになります。このグラフはPMOや開発部長といった複数のプロジェクトを見る責任のあるマネジャーが活用します。
統計的に考えると、各タスクに余裕を計画するより、集めて計画した方がバッファサイズを小さくできることを説明しました。これを応用して考えれば、プロジェクトごとにバッファを管理するより、同時進行する複数のプロジェクトのバッファを共有して管理すれば、それぞれのプロジェクトのバッファサイズをさらに縮小できることが理解できます。
例えば、バッファをほとんど消費しない幸運なプロジェクトと不運の連続でほとんどのタスクが遅れバッファがレッドゾーンに張り付いているプロジェクト両者のバッファを進ちょく会議で共有していれば、幸運なプロジェクトから不運なプロジェクトにリソースを移動して、両方のプロジェクトを納期内に終わらせるマネジメントが可能でしょう。このように企業のリソースを最適に配置するマネジメントが実施できれば、バッファサイズをさらに縮小し開発期間を短縮できるようになります。
また、このグラフの多くのプロジェクトがレッドゾーン近辺に集まっていれば、組織全体が過負荷であることが一目で分かります。こういった状況になればマネジャーは新規プロジェクトの納期回答に慎重を期すよう、営業・マーケティング部門に伝えなくてはならないかもしれません。逆にグリーンゾーンに集まっていれば、より短い納期も完成できるかもしれませんから、ライバルを考えて思い切った短納期受注も可能であると伝える。こういった使い方も可能になります。
このようにバッファ傾向グラフを活用した進ちょく確認を実施することにより、上位マネジャーは本来の役割である、組織全体を最適に導くマネジメントが迅速にできるようになり、開発期間短縮が実現するのです。
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今回は、バッファを中心としたPDCAサイクルのうち、Do(実行段階)、Check(確認段階)について解説しました。次回はいよいよ最終回ですが、Action(対策段階)について解説します。対策段階では、レッドゾーンでの対策のみならず、本質的な対策であるプロセスの改善、評価などを含めたシステム改善の領域まで踏み込んで解説します。
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