試作前にCAEで評価すれば、試験項目を削減できる。コストもその分削減できる。試験が1回で終わるようになりたい!
前回は、主に疲労による破損の過程と安全強度設計の考え方について説明した。同時にFEM解析の応力値だけでは耐久性の判断が難しいことがお分かりいただけたと思う。また、疲労損傷にかかわる解析においては軽量で丈夫な(=剛性があり、強度があり耐久性がある)製品を設計するためにも、より現実的な荷重の値を設定することが必要であることを確認した。
今回は、疲労解析でできることと疲労解析の手法を紹介していく。CADによるモデリングから解析で結果を導くまでの一連の手順を示し、その手順に沿った解析例と評価対策案の例を説明する。
以下に、疲労解析でできることと、利点と効果について説明する。
疲労解析を実施すると、安全係数が小さい個所、破損やき裂に至る部品ないしは製品の寿命を知ることができる。安全係数だけではなく、寿命予測、危険個所の候補を網羅することができ、分かりやすい形式で設計者、解析担当者、試験担当者間で共有することができる。
構造全体と構成部品を網羅して耐久性を確認することができる。複数の部位で最も短い寿命の個所を算出することができ、構造全体で強度バランスを考えつつ部品の設計をすることができる。
試作品が作成される前、設計早期の段階で評価することができる。
材料の調達コスト、材料の重量、加工方法、表面の処理、仕上げ精度などの検討がしやすい。
上記のような仕様検討が、複数の組み合わせ試験をせずに選択可能となる。
また上記の材料、加工、コスト、重量などのExcel表をBOM(部品表)で管理して自動的に取り込んで評価をすることができるソフトウェアもある(nCode社の「DesignLife」など)。
試作試験が難しい部品の強度評価が可能
またCAEは、試作をすることが困難であったり巨大な製品であったりする場合にも、仮想モデルを作成することで強度評価が可能である。
き裂のチェックはマーカーによる目視検査や、可動部のひずみの変化をモニターするなど多々ある。しかしそれらのチェックを頻繁にすることは困難である。決められた試験仕様で破損することなく試験が完了した場合には、き裂の発生直前でもその現象を把握することは容易ではない。一方、CAEでは目標寿命に対してあとどのくらい余裕があるか、破損を定量的に予測することができる。
3次元モデルと連携したCAEでは、同じ機能を満たす部品に対して設計案が複数ある場合(例えばA案、B案、C案から選択する)も、実物を試作せずに仮想環境で試すことができる。また仕様変更を簡単かつ迅速に試すことができる。
実機試作の前に、解析モデル上で危険個所を示すことができ、その後の試験時に要注意個所に注目することができ、かつ詳細にチェックしながら試験を続けることが可能だ。そうすることで、要着目点に関する多くの情報を試験から得ることができる。
実際には、製品の最終(実機)試作は必要である。また試作品にひずみゲージを張り付けてひずみを測定するなどCAEモデルによる解析結果の検証は必須で、いまもなお(今後も)試験は必要である。現在は試作をなるべく減らし、試験は少なくとも1回で済ませることが主要なテーマになっているので、もっと積極的に試験前の設計検討に注力することにより、試験の繰り返しを削減し、その分を多種の試験に転換していけば、より効果的な耐久性設計ができるようになる。
ここでは、疲労解析の手法を紹介する。
古くからよく知られている「SN寿命解析」は「応力寿命」とも呼ばれている。材料特性は、部品そのものを試験する場合では「コンポーネントSN」と呼ぶ。コンポーネント(部品)をある方向に繰り返しの一定荷重ないし実稼働の荷重を加えて評価する。
また複数の荷重レベルにおいて多数の供試体を使ってSN材料特性する場合を「マテリアルSN」と呼ぶ。応力による損傷度を材料から求めて、損傷度が1になる寿命の値を解析する。応力・ひずみ関係は線形を前提としているので、主に高サイクル疲労(応力レベルは比較的低い)に対応する。材料試験では複数の供試体で実施するので必ずばらつきがあり、これを定量化して解析に利用することもある。このばらつきを含むSN材料特性を「P-S-N」と呼ぶこともある。「P」は確率(Probability)の略である。
「EN材料特性」は、材料の本質的な繰り返しひずみ、応力間の応答曲線を抽出することができる。この手法では、応力集中部位の塑性(そせい)ひずみと応力の関係(「ヒステリシス」)から低サイクル疲労の解析をすることができる。
機械の接合部位は疲労破損しやすい。機械部品や構造を製作する場合によく用いられる溶接は構造上の弱点になりやすいので、設計では特に慎重になる必要がある。また溶接専用の解析手法も開発され、実用化もされている。主に先述したSN手法をベースに解析をする。また、それぞれの接合方法に見合ったモデリング方法を採用する方法が必要になる。
自動車の排気系や電機電子部品など、比較的大きな部品に軽量(おおよそ質量比が1000倍以上)な部品が取り付けられている場合、大きい部品が取り付けられている個所の振動を荷重入力点とする。
繰り返しの振動パターンがあれば、部品が持っている固有振動数(共振周波数)と入力荷重の周波数が重なっている場合は、FEMで固有値解析をして「モード重ね合わせ法」(共振ごとに、入力荷重を重ね合わせていく方法)を適用する。
路面荷重や輸送中の荷重など、その振動は長い時間にわたってランダム的に入力されるので、横軸が時間軸であるとデータ量が膨大になってしまう。そこで多くの製品では、振動による疲労を「パワースペクトル密度関数(PSD)」の応力に集約し、横軸を周波数として荷重データを設定している。このように、横軸を周波数として計算することで、解析の効率を上げることができる。これを「ランダムPSD応力による疲労寿命予測手法」と呼ぶ。
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