iPhoneには赤外線がないけど消えゆく技術なの?いまさら聞けない 赤外線通信入門(2/4 ページ)

» 2008年09月19日 00時00分 公開
[北角権太郎(IrDA 会長/イーグローバレッジ チーフテクノロジスト),@IT MONOist]

IrDA(赤外線データ協会)ではどんなことをやっているの?

 IrDAの最新技術を知るには、IrDAの会員になることが一番簡単であり、唯一の方法ともいえます。

 基本的に会員登録をして年会費をきちんと納めれば、現在策定中の最新規格から、マーケット活動の参加が可能です。また、アメリカと日本、およびそのほかの地域(アジアやヨーロッパなど)で開催される定時総会(年3回)への参加もできます。

 IrDAの組織構成は、「理事会(Board Member)」の下に、実際のIrDAの運営を行う事務局と役職員がおり、IrDA会員の投票で選出されます。

 「委員会(Committee)」は、「マーケット委員会(Market Committee)」「技術委員会(Technical Committee)」「テスト・相互接続性委員会(Test and Interoperability Committee)」の3つの委員会から構成されています。また、外郭機関として「相互接続性テスト試験所(Interoperability Test Laboratory)」があります。

 さらに、IrDAの技術的な方針を評価する「IrDA Architecture Council」と、テストと認証などの方針を決定する「Test Council」という2つのチェック組織が理事会の直下に置かれて、各委員会から上程される規格案、試験方針などが評価されます(図2)。

IrDAの組織構成 図2 IrDAの組織構成

 マーケット委員会は、赤外線通信を取り巻く市場調査、IrDA技術の普及促進などを行います。新しいIrDA規格を技術委員会で討議する前に、新たな規格のマーケット調査をマーケット委員会で行い、市場性や普及の可能性を事前に検討します。やみくもに新しい技術を追い求めるのではなく、「はじめに市場性ありき」で規格化を進めていきます。

 技術委員会は、マーケット委員会で承認された規格策定方針に基づいて、それぞれの「専門部会(SIG:Special Interest Group)」を立ち上げて、規格開発を行います。開発された規格は、会員と理事会で3回審議され、正式なIrDA規格として採用されます。

 テスト・相互接続性委員会では、技術委員会で作成された規格を試験するためのガイドラインや、相互接続性テスト試験所で行われる試験方法などを定めたテスト規格を策定します。

 IrDA規格の承認、運営規定などの決議事項のほとんどは会員投票によって議決されます。また、IrDA会員であればすべてのSIGに自由に参加できますし、役職に立候補することもできます。ですから、各IrDA会員の権利は平等で、機会均等であるといえるでしょう。

「赤外線通信」の方式について 〜 「IrDA規格」ってどんな規格? 〜

 赤外線通信を確実に行うためには、大きく分けると以下の3つの要素を定義した規格が必要となります。

  1. 赤外線物理層規格「IrPHY(Infrared Physical Layer Specification)」
  2. 赤外線共通プロトコル
  3. 赤外線アプリケーション規格

 これら3つの要素について以降で詳しく解説していきます。

(1)赤外線物理層規格「IrPHY」

 赤外線物理層規格「IrPHY」では、赤外線を利用した物理的な要素として必要となる部分を定義します。大ざっぱにいえば、どのような波長の赤外線を使用し、どの程度の距離で通信が可能であり、通信速度はどの程度で、許容できるエラーはどの程度なのかを定義します。この部分が規格化されると、デバイスメーカーは赤外線トランシーバを作ることができます。

 赤外線物理層の規格は、年代を追うごとに高速化され現在に至っています。主に通信速度が向上されたり、省電力などの機能を追加されたりします。俗にいう「IrDA Ver X.X」というのは物理層の規格を示していますが、専門家の中でも誤解が生じていることが多いので以下で正確に説明しておきましょう。

IrPHY 1.0(IrSIR)方式

 この規格はIrDAが最初にリリースした規格で、通信速度は9600bps、19200bps、38400bps、57600bps、115200bpsの通信速度に対応した物理層規格です。通信可能な距離は1.0mまでで、オプションとして3.0mまでの通信が可能な規格です。IrSIRは赤外線の発光量を少なくするための工夫がされており、発光している時間は16分の1以下となります。また、すべてのIrDA機器は9600bpsをサポートしなければなりません。すべてのIrDA機器は通信の開始時に、9600bpsの通信速度で「折衝(Negotiation)」を行って、さらに高速の通信速度に移行するようになっています。現在でもIrSimpleを採用していない携帯電話やPDAなどで採用されている方式です。なお、誤り検出は「CRC-16」を使用します(図3)。

IrPHY 1.0(IrSIR)方式 図3 IrPHY 1.0(IrSIR)方式

【図3 補足】

IrSIR方式の基本的な1バイトのデータ構成は、一般の非同期シリアル通信で使われる1ビットのスタートビット、8ビットのデータ、1ビットのストップビットで構成される。フレームを変復調回路を使って赤外線パルスに置き換える。シリアルのデータは0または1で、スタートビットは必ず0、ストップビットは必ず1となっている。IrSIR方式の場合、各ビットタイム中のデータが0の場合にはビットレートの16分の3区間または、1.63μs光らせる。16分の3のパルス幅は通常、非同期シリアルポートの受信回路を駆動する回路が、ビットレートの16倍のクロックでサンプルするので、このサンプルクロックを使って変復調を行うことで変復調回路を簡素化でできるために採用された規格である。最小のパルス幅である1.63μsの規格は、115200bps時の16分の3に該当し、省電力化を目的とする。


IrPHY 1.1(IrMIR/IrFIR)方式

 この規格はWindows 95がリリースされたときに、赤外線の高速バージョンをIrPHY 1.0に追加したものです。「IrMIR(Middle Speed Infrared)方式」は、576kbpsと1152kbpsの通信速度で、変調方式は「HDLC方式」と同じフレームフォーマットを採用し、発光時間は4分の1です(図4)。

IrMIR方式 図4 IrMIR方式

【図4 補足】

IrMIR方式のフレーム構成は2つ以上の開始フラグ、アドレスフィールドとデータ、そしてCCITT勧告のCRC-16と終了フラグで構成される。連続した5個以上の1は、0ビットインサーション処理が行われる(HDLC規格と同一)。赤外線変調回路は、各ビットタイムのデータが0の場合は、ビットレートの4分の1区間発光させる。ハードウェアは、自動的にフラグシーケンスを見分け、フレーム単位でDMA(Direct Memory Access)で自動的にシステムメモリにフレームを取り込み、取り込み中にCRCを計算しCPUに対してステータスとして受信データの有効性をシステムに報告する。


 また、IrFIR方式は4Mbpsの通信速度で、変調方式は「4PPM(4 Pulse Position Modulation:4値パルス位置変調)」を採用し、発光時間は4分の1です。誤り検出は、「CRC-32」を使用します(図5)。

IrFIR方式 図5 IrFIR方式

【図5 補足】

IrFIR方式のパルス変調方式「4PPM」は、連続する2ビットのデータをペアとして、通信ビットレートの2倍のクロックをベースにして、4つの枠のどの位置にビットが立っているかを判定して4値のデータに変換する方式である。この方法により、パルス幅は通信レートの2分の1、発光のレートは4分の1に抑えることができる。この変調方式のデータを受信する場合は、4つの枠の先頭を検出するためのビットパターン(パターンマッチングによるビット位置検出)であるプリアンプルが必要となる。


 ノートPCに採用されている方式は、「IrPHY 1.1」です。ヨーロッパの携帯電話の場合は、「GPRS(General Packet Radio Service)」の通信速度の上限が256kbpsなので、IrMIR方式までを可能にした携帯電話が発売されています。IrSimple対応機器は、IrSIR+IrFIRで構成されている場合があります。

IrPHY 1.2 省電力方式

 「IrPHY 1.2」はIrMC方式とともに制定された規格で、赤外線通信を搭載した携帯電話のために通信距離を20cm程度に制限し、消費電力を3分の1以下程度になるような省電力機能を追加した規格です。

IrPHY 1.3(IrVFIR方式)

 「IrVFIR(Very Fast Infrared)方式」は、16Mbpsの通信速度を追加した規格です。変調方式は、IrDA固有の「HHH方式」を採用し、平均発光時間は25%程度です。現在はノートPC用のIrDAドングルや、赤外線機能付きのMP3プレーヤなどに採用されています。

IrUFIR方式

 IrPHY規格の修正案(Errata)として、「IrUFIR(Ultra Fast Infrared)方式」があります。まだこの方式のデバイスは発売されていませんが、通信速度は約100Mbpsで変調方式は「8B10B方式」、平均発光時間は50%です。

GigaIR方式

 この方式は、現在審議中の物理層規格です。通信速度は、1Gbpsを目標としており、2009年3月までに規格化を目指して、現在開発中の赤外線物理層の規格です。最終的には、この規格を含めて「IrPHY 2.0」として2009年にリリースされる予定です。

IrDAの主要通信速度とコンテンツ転送速度 表1 IrDAの主要通信速度とコンテンツ転送速度

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