Rollyのトップカバーですが、このように(図3)一体でできています。当然、金型で成形するわけですが、この形状だとアンダーカットが2つできます。
デザイナーが「筐体上部に割れ目をどうしても入れたくない」といってきました。これを聞いた設計サイドは、正直悩みました。金型が複雑になるのは目に見えて明らかでしたから。でも確かに、デザイナーのいうこともよく分かるのです。例えば、中心から少しずらして割り線を入れたりなんかしたら、やはり素直に「カッコ悪い」です。
そこで、金型メーカーに相談してみたところ、「分かった。チャレンジしてみるよ!」といってくださったのです。
思っていたとおり金型は少々複雑になりました。内側にも外側にも、スライドを入れることにしましたから。
まず図4の1方向へスライドして中身をごそっと取ります。次に、上ヘ抜きたい……しかし下側にはアンダーがあります。ですから普通の方法では抜けません。よって、2の外方向へのスライドを設けました。
つまり順序は、
1(内スライド)→2(外スライド)→3(上へ抜く)
となります。
パーティングラインは体裁面にはっきりと出ないようにしています。パーティングラインがSONYロゴに掛からないようになど、いろいろ制約があり、苦労しました。
成形部品の一部が型に食い付いてしまったり、寸法が出なかったりなどのトラブルは試作当初、結構ありました。要は型が複雑ですから、あちこち引っ掛かってしまうのですね……。よく食い付いたのは、?のスライドで抜くときでした。設計者も積極的に成形工場へ立会いに行くようにしていました。
その後、量産が始まってからいままで、大きな成形トラブルは起こっていません。
おそらく、触らないと分かりませんが、下カバーは金属製です。これにも当然、理由があります。
電池を切った状態で置くと、筐体の頭上にある電源ボタンが必ず上にくるようになっています。つまり、「起き上がりこぼし」のような構造となっています。金属の下カバーにそのオモリの役割をさせて、重心が下にくるように安定させているというわけです。
重心を検討する際には、3次元CADやCAE(シーメンスPLMソフトウェアの「NX」を使用)の利点がいかんなく発揮されていたと思います(図5)。いったん3次元モデルを作ってしまえば、材料物性のデータを入れ替えたり、モーターを下に寄せ配置したりして、いったいどれぐらい重心が落ちるか、などの検証が3次元空間で効率よく行えました。
材料に関しても、「この地球上で密度が一番大きい材料は何だ」「その中でも、かなり重いものは何だ」と調べていきました。設計段階では、高比重樹脂も材料の候補の1つとして挙がりました。樹脂なのですがタングステン並みに重たいのです。それを採用すると重心がすごく落ちました。ただ、どうしてもコスト面がネックになって却下しました。ちょっと高過ぎましたね……。最終的に、成形可能な金属で、かつその中で比重が高いという亜鉛を選択しました。亜鉛ダイキャストです。
関連リンク: | |
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⇒ | 高比重プラスチック成形品の物性を金属と比較(KISCO) |
写真5の筐体の場合、それぞれにパールの白を塗装します。プラスチックの材料色は白で、金属の地色はシルバーとそれぞれ異なっていますが、色のばらつき分布のセンターをぎりぎりまで狙って色出ししました。写真の筐体では、色の違いはほとんど分からないと思いますが、量産直前まで大変苦労しました。
色感を統一するために、通常、なるべく同じベンダで塗装するのですが、この場合は材質が違ったので、それがかなわなかったわけです。
設計都合を一方的に考慮するならば、あえて外装をツートンカラーにしてしまうでしょう。例えば、上を真っ白、下を薄グレーにしてしまうとか……。デザイン上も悪くはないはずです。しかし、今回のコンセプトは卵です。ツートンカラーだと、なんだかしっくりきません。Rollyは、「デザインへのこだわり」も重要なポイントなので、無視するわけにはいかない部分でした。
「オーディオプレーヤーとして訴求(そきゅう)」、すなわち「音にこだわりを持つ」というのも重要な設計コンセプトでした。
「いい音を出すには、大きくて高級なスピーカーを付ければよい」。まあ、それは当然です。Rollyの場合、「こんなに小さいのに、すごくいい音が出るんだ!」とユーザーに驚いてもらいたいという1つの思いが私たちにはありました。
音を良くするために、スピーカーをできるだけ大きい容積にする必要があります。
写真6の矢印の部分がスピーカー“そのもの”です。通常、スピーカーにはカバーを付けますが、ここでは、スピーカー容積をできるだけ確保するために、それ自身を体裁面として露出させています。カバーを付けた分だけ、容積が小さくなってしまいますから。
また通常、スピーカーは正面を向かせてステレオ再生するものです。でもRollyでは、あえて左右対向にスピーカーを配置しています。スピーカーを筐体の正面に置こうとすると中でかさばり、筐体サイズを大きくせざるを得なくなります。それに、Rollyの場合は通常のオーディオ機器とは違い、筐体の正面にスピーカーを置くメリットがあまりないのです。室内中をあちこち動き回り音を流すものですから。
Rollyはスピーカーの容積が比較的小さいこともあって、どうしても低音域が弱い傾向にあります。その欠点を少しでもカバーするために、スピーカー自身にネオジウムマグネット(磁力がフェライト磁石の約10倍)を使っています。また、床の反射効果も利用しています。床に置いたときと床から離したときとで音を比べると、離したときの方が音は軽くなります。
Rollyは音楽に合わせていろいろなモーションをします(写真7)。例えば、クラッシックが掛かれば静かに踊る、速い曲なら速く動く、楽しい曲なら子供が遊ぶように……など、動作に幅広い表現力が要求されます。AIBOで培った経験が特に生かされている部分でもあります。
多様な動きを表現するために、モーターやギアをあちこちに配置しています。ただ、モーターの音やギアの音(ノイズ)がギーコギーコと聞こえてきては、音楽を聴きづらくしてしまいますよね。Rollyは、動力の静音化にかなりこだわって設計し、ノイズをだいぶ抑制しました。
ノイズを減らすために、ギアの使用をできるだけ少なくしました。当然ですが、ギアが多ければ多いほどうるさくなりますから。Rollyの足であるホイールのギアの段数は1段にしました(図6)。どうしてもギアを複数段にせざるを得ない部分や摺動(しゅうどう)部にはグリースを塗りました。
また、グリースの種類や量が、ノイズにどう影響するかを検討しました。最終的には事業所でグリースの塗布量が管理できる設備を入れた生産ラインを作りました。元々、オーディオの工場です。いまやメモリオーディオのような、筐体と基板で成り立っている製品の生産が増えてはいますが、CDやMD(ディスクを回転させる機構)を昔から作ってきた歴史があります。組み立てで注意するポイントを生産現場にきちんと指導すればよかったのです。
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