踊る音楽プレーヤー「Rolly」の筐体設計の秘密を設計者自らが語る。小さなシンプルボディーには、思いとこだわりゆえの苦労と技術が詰まっていた
今回は、ソニー オーディオ事業部の大口 伸彦氏に、踊る音楽プレーヤー「Rolly(ローリー)」(正式名称は「SEP-10BT」)の機構設計について語っていただいた。
大口氏は、過去、ペットロボット犬の「AIBO(アイボ)」の設計開発にも携わっている。Rollyの設計にもその経験が生かされているそうだが?(以下の文章、聞き手は小林由美)
Rollyの起源となるアイデアを考えたのは、2004年のことでした。当時の私(大口氏)はまだ、メインでAIBOの開発に携わっていました。AIBOの要素技術を使った新しい商品ができないだろうか」と設計仲間同士で話していたことがすべての発端でした。
定時後に設計仲間を集め、3次元CADで検討したり、上司の承認を得て費用を少し工面してもらい試作をしたりしました。もちろん、それぞれメインの業務があるわけですから、これは、いわゆるアフターファイブのクラブ活動に近いものでしたね。
そうやって仲間内で検討や試作を重ねるうちに、このアイデアの可能性や技術的な興味が深まっていきました。設計もどんどん進み、そして商品としての形もできつつありました。
その後、私はその商品アイデアとともにオーディオ事業部へ異動しました。そこで、さまざまな部門の人に対しアイデアの商品化のPRを行いました。その半年後にRollyの商品化が決定し、2007年の9月に発売されました。キックオフからリリースまでの期間はだいたい1年ぐらいということになります。
開発スケジュールは大きく遅延することもなく、量産もおかげさまで、いまのところ大きなトラブルもなく順調です。ただし、私たちの思いがこもった“こだわりの設計”を実現するまでにまったく苦労がなかったのか、といえば、そんなことは決してありません。
今回はその一部、特に筐体・機構設計関連にかかわるお話をしたいと思います。
Rollyはこのようにシンプルな卵形をしています(写真2)。
ぱっと見、ネジが1個もありません。例えば筐体の真上にネジがあったら、非常にカッコ悪くなってしまう――いわゆる、“ごく普通の家電”になってしまいます。ただ、ネジを減らすことを追求し過ぎると、組み付け構造が複雑になってしまいます。工場で組み立てる場合やサービス対応をする場合、作業効率が著しく悪くなります。設計では、デザインコンセプトと組み付けしやすさの相互バランスに気を使いました。
実は、ネジは電池室の中にあり、外からは見えないようになっています。このネジを外すと、トップカバーが外れ、すぐそこに基板が見えます。基板も部品もドライバーを使ってどんどん外せるようになっています(*1)。
*1 ユーザーが分解すると故障の原因となる恐れがあります。
今日は、スケルトンモデルを持ってきました(写真3)。展示会などでよく使っているものです。
外見はシンプルですが、中身は結構詰まっている感じがこれでよく分かると思います。この中心部は、ほぼバッテリーで占められています。これが抜けると、がらんとしてしまいます。
そして、このバッテリーを取り囲むようにモーターを4個配置しています。さらに2個は、サイドにあるアームを動かすために付いています。
スピーカは1.2W+1.2Wの出力です。さらにモーターが合計で6個も付いているし、LEDも光ります。ですから、かなり電力を消費します。
例えばパソコンの放熱対策だと、外装にスリット穴を開けたり、装置の中にファンを付けたりします。しかしRollyの場合は卵形で、かつ小さく、スリット穴やファンを付けようとすると、サイズが大きくなったり、見栄えが悪くなったりしてしまいます。「熱を逃がすのはどうしても無理だ」と判断しました。
そこで、なるべく音質を落とさないよう、部品トータルの電力を下げる方法を検討することにしました。また電力を大きく食う電子部品の配置を工夫して熱をできるだけ散らすよう、ソフトウェア上で解析しました(図1・2)。
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