「設計本来の業務とは何だろう? それは“図面を描くこと”だ。しかし、あくまで図面とは意思伝達ツールだと考えるべき」と熊谷氏は語った。
かつての産業システム事業部では、他部署とのやりとりが発生したり、事前検討でつまずいたりするたび、いちいち図面を出図しなくてはならなかった。作業現場から改善提案が上がってきても、また出図、である。すなわち、製図の作業工数がやたらとかさむばかりであり、設計者の作業負荷が増大する一方であった。
しかし、その意思伝達ツールが図面である必要性がないシーン、あるいは3次元モデルの方が都合がよいシーンが存在していることに熊谷氏らは気付いていた。そこを3次元CADのモデルへどんどん置き換えていき、開発の早期での問題点洗い出しや他部署との情報共有をしやすくしていった。
従来の業務では後戻り作業に手間取られがちだったが、それは事前検討が不十分であるためだった。ならば事前に徹底検証して問題とつぶすべきだが、納期に追われてそんな余裕はなかったという。
確かに、従来の2次元図面の検証は手間と時間がかかる作業だった。だが3次元モデルならそれより効率的に検証作業が行えるはずである。そこで熊谷氏らは、事前検証のためにいちいち図面を用意しようとせず、まず3次元CADで検証を行うことに決めた。仮想検証ならミスがあっても実機が犠牲にならないので、コスト面でも工数面でもメリットは大きい。
また他部署や客先に説明用の資料として、2次元図面を配布するよりは3次元モデルやそれを参照した資料の方が理解してもらいやすいものだ。機械設計部門以外の人の中には、機械製図の三面図や表記の意味を理解できない人も多いのである。
かくして熊谷氏らは作業負荷軽減やフロントローディングを具体化していったのである。 大型プレス機械の設計は、先述のとおり生産設備全体を考慮しなくてはならないため、上記のような意思伝達の潤滑化も重要なキーであるといえる。
導入当初、3次元CADを実務に適用するにはいくつかの課題や要望があったという。
などである。
上記課題を解決するため、熊谷氏らは3次元CADの機能改善要求を素早くCADベンダ(デジタルプロセス)へフィードバックするのみならず、ベンダと共同で配管ツールと基礎設計ツールの開発にも取り組んだ。
配管図を3次元化することで設計時の検証漏れによる現物の干渉も減ったし、基礎図を3次元化することで基礎図の特殊な表記や設計ルールに慣れていない人でも設計検討がスムーズに行えるようになったという。
このようなコラボができたのも、国内で開発しているCADだったことも大きなメリットだという。不具合や改善要求のほかにも、機能への要望にも柔軟かつ迅速に対応してもらえたと熊谷氏は述べた。
3次元CAD導入で、複雑かつ特殊な配管や基礎の設計が立体化され直感的に理解できやすくなったことにより、ベテランにしかこなせないレベルといわれていた設計が、実務経験数年の若手エンジニアでもできるようになり、それによる工数削減効果も大きいと熊谷氏はいう。
いまもなお残された課題のうちの1つは解析業務の改善である。「“あり得ない”動きをしたときに装置が壊れるものだが、CAEはそこまで考慮してくれない」。この感覚を理解していないと、CAEを正しく操作したとしても、誤った判定をしてしまう恐れがあると熊谷氏は述べた。
一撃の打撃で壊れるのか、疲労によってじわりじわり壊れるのかも判断もできない。また現状の3次元データも、正確に力学物性を判定する要素を完全に盛り込んでいるとはいえない。そんなCAEの性質もしっかり理解したうえの運用を設計現場に周知させなければならない。
ベンダと共同開発した配管設計システムも、まだ改善の余地ありだと熊谷氏は述べた。それに、外注設計者への普及もまだこれからだという。
「このミッションに終わりはない。いまよりもっともっと自分たちの設計作業が楽になるように、あの機能は? この機能は? と追求していくつもり」と熊谷氏は話した。
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