いきなり質問攻めにしたので、ゆみさんは困ったような顔をしていた。だが、モヤモヤの原因が少しは理解できたようだ。
ゆみ「設計アシスタントをしていながら、設計のプロセスとか設計基準とかも、よく理解していなかったんですね」
龍菜「そういうことだね。カップは何から設計する? と考えれば、おのずと答えが出てくるでしょう」
ゆみ「そしたら、デジカメはレンズからですよね?」
龍菜「正確にいうと、光からだね? 光軸や焦点が設計基準になっているはずだよ」
3次元CADやCAEのツールを使うようになって、それらを使うこと自体が設計だと勘違いされている人も多いが、実際にはそれ以前の作業が設計である。彼女も、日々の作業は先輩設計者から教えてもらっているけれど、設計で重要な部分の見つけ方や、設計基準はどうあるべきか、などについては教えられていないようだ。
ゆみ「聞きたいことは山ほどあるんですが……」
龍菜「ちょっと整理してみましょう。設計の基本的なところは、いま、話したよね」
ゆみ「ていうか答え……、まだ聞いてないんですけどぉ」
ゆみさんはそういいつつ、私に甘えるようなそぶりをみせたが。
龍菜「ははは、答えをいうのは簡単だけど、この後の説明を聞きながら自分で気付いてほしいな」
◇
次回は、「製図」について話をしようと思う。設計基準を不明確にしたまま、形を作るためだけに3次元CADを使っている会社では、製図の使い方もうまくいっていない場合が多い。
ゆみ「結局、他人が作ったモデルが使いにくいのは、設計できてないから?」
龍菜「それに加えて、3次元CADというツール自体をうまく使えていないんだ。このあたりのことも、説明が必要だね」
ゆみ「あと、デジカメだと、意匠デザイナーとよくもめるんですけど」
龍菜「それは、意匠デザイナーの要求する造形ができる、できないってことだね」
ゆみ「機構設計者はどこまで、意匠デザインのことを理解してればいいのかな、と……」
意匠デザインの造形については、3次元CADのモデリングテクニックに重点を移すことになるが、意匠デザイナーが要求する造形の可否を判断するには、論理的な考え方も必要である。
これらをテーマごとに、6回構成で説明していこうと考えている。最終回で、果たしてゆみさんは設計者としての入り口に立てるだろうか?(次回に続く)
西川 誠一(にしかわ せいいち)龍菜
1956年生まれ。キャディック 取締役 最高技術責任者。1999年、三洋電機退社後、多くの企業で3次元CADを活用した設計プロセス教育、およびコンサルティングを行っている。Webサイト「龍菜」では、「重要なものを見抜けば、世の中にモデリングできないものはない」というキャッチフレーズで、多くのモデリングテクニックも公開。
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