悩める課長は、とあるきっかけで、あるコンサルタントの力を借りて開発プロセス作りに取り組み、成果を出している事例を知りました。 一縷の望みをかけて、課長はコンサルタントに会ってみることにしました。そのコンサルタントとの話し合いは、課長にとっていい刺激になりました。独りで悩んでいた暗い雲の中に、一筋の光が差し込んだような思い。課長はコンサルタントの勧めに従い、現状分析サービスを利用してみることにしました。問題意識の薄い現場に、自分たちの状況を客観的に見せることで、プロセス改善のきっかけにしたいと考えたのでした。
現状分析は、まずメンバーへのアンケート、それからインタビューが実施されました。その後コンサルタントによってそれらの分析が行われ、結果報告と併せて改善計画が提示されました。結果は、プロセスも意識も最悪。想像してはいたものの、現実を目の当たりにして課長の危機感は募りました。
結果報告会の場には、各部の部長に加えて社長も同席しました。課長は、すぐにでも改善に着手したいと考えていました。しかし会議は難航しました。経営陣には、過去にコンサルティングに投資をして、失敗した経験がありました。そのため、この種の投資に関しては大いに不信感を抱いており、慎重にならざるを得ないのでした。しかし一方で、品質の低下を食い止め、市場で勝ち残るための方策を模索しているのも事実でした。競合はいまや国内だけではありません。年々厳しくなる競争の中で、品質低下は死活問題となります。
課長とコンサルタントが提示した分析結果は、経営陣を大きく揺らすこととなりました。しかし、社長は決断したのです。
やるしかないでしょう。
そして、社長は付け加えました。
必ず成果を出してください。
こうして、プロセス作りへの取り組みは、第一歩を踏み出しました。
コンサルタントの提示した改善計画は、「プロセス改善」というより、むしろ「プロセス作り」に近いものでした。
特に奇をてらったものではなく、当たり前のストーリーです。でも、現場だけでやみくもに活動しても成果は遠い先になってしまうでしょう。立ち上がりを早めるためには、勘所を知っている人の力を借りない手はありません。
そしてコンサルタントは、成功させるための重要な鍵として、1つのことを要求しました。
最初の半年間は、専任の担当者を置いてください。
これは、プロセス作りが、開発業務の片手間でできるものではないことを意味していました。開発業務から切り離すのは、実際はかなり難しい。しかし、開発が忙しいからと中途半端な活動を行っても、効果のある改善は望めないだろうことも明らかでした。
結局、課長を中心にメンバーが1人、ここにコンサルタントを加えた3人によって、改善推進グループが組織されることとなりました。ここに加わったメンバーは、皆から信頼されているいわゆるキーマン的存在の人です。彼がメンバーに加わることで、現場からの理解も得やすくなるだろうとの考えでした。
活動の最初は、成果物を規定することからでした。ソースコード以外に何を残すのか、そこに書かれるべき項目はどうするか、誰が作成し、どう承認するのか……、プロジェクトの基本を、まずきちんとやっていこうということです。
成果物を規定するに当たっては、過去のプロジェクトの中からベストプラクティスを集めるという作業を、根気強く行いました。外部で成功したプロセスや、工学的に推奨されるプロセスであっても、この現場の特性に合わなければ、逆効果になってしまうからです。現場にマッチする良いプロセスのヒントは、必ず自分たちの周囲にある。それらを整理し、ルール化し、テンプレート化していくことが、運用できるプロセスを作るポイントだというのが、このコンサルタントの考えでした。
最初は、雲をつかむような、気の遠くなるような作業の連続でした。しかし、集めてきた素材は、コンサルタントとの共同作業によって、少しずつ規定の形を整えていきました。
作業工程の規定、ツール運用への展開、データ分析、プロジェクトマネジメント研修から、会議の進め方まで、開発プロジェクトの要素を少しずつ形にし、A社の開発プロセスとして組み立てていきました。きちんとしたいとするあまり、つい多くの手順を組み入れてしまいがちになりますが、コンサルタントは「現場で運用できるか」という観点から、プロセスをシンプルにするようリードしました。時には視覚的なフローで、時にはテンプレートやチェックシートで、どうすれば現場が運用しやすいかという着眼点に立ったプロセスの運用規定でした。
そして、1年半。プロセスといえるものができ、運用も段階的に進み、少しずつですが明らかに状態は改善し始めていました。
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