クリスタルイヤフォンは電子技術者の聴診器:注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(12)(1/2 ページ)
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第12回は、筆者が入院中に興味を持った「聴診器」から着想を得たクリスタルイヤフォンの活用法を紹介する。
はじめに
読者の皆さんは何らかの形で医者にかかったことがあるかと思います。実は筆者は、骨折でここ数週間(編注:2023年3月下旬)、医療機関と少なからず関わりを持ちました。MONOistの記事の何本かはその際に病室で書いたものです。
さて、病院と言えば、医者が使う聴診器に興味を持った方も多いのではないでしょうか。筆者もそれにいたく興味をそそられた者の一人です。「聴診器」は、英語では“stethoscope”というそうです。これを“stetho”と“scope”に分けて考えてみましょう。“stetho”は、ギリシャ語の“stetho”で「胸」を意味します。これ以外に“scope”と組み合わせて使っている単語を拾ってみると“telescope”“microscope”などがあります。これらは“tele”が接頭語に付いて望遠鏡、“micro”が接頭語に付いて顕微鏡となります。
これらの共通点は何かを見る道具という点ですね。用法から推察すると“stethoscope”は胸を見る道具となります。聴診器は本来は聴く道具なのですが“scope”の意味としては「見る」とか「聴く」とかにはとらわれていないようです。もしある読者の方がプログラマーならば、“scope”はいわゆるオブジェクトが及ぶ範囲という意味で使われているでしょう。また、他の読者の方がビジネスマンであれば、講演やプレゼンの際にその話で取り扱う範囲を“scope”という言葉を使って冒頭でお話しされるのではないでしょうか。
つまり、“scope”とは人間の五感を拡張する道具であり、その使い手の興味の対象を調べるのに焦点を当てたあるいは最適化された道具である、という解釈をここでは提示しておきます。
聴診器
さて、聴診器についてあえて電子技術者の言葉で語ると、「プローブ」を対象者の体に当て、その振動を耳で聞けるようにして「レシーバー」で聴く道具です。とてもシンプルな構造で電源も必要としません。
なぜわれわれが聴診器に対して並々ならぬ興味を抱くかというと、このシンプルな道具で経験を積んだ医者なら、患者のたいていの異変に気付くということらしいからです。このあたりが筆者のような電子技術者にとって聴診器が神がかり的でありクールなツールに映るのです。
クリスタルイヤフォン
一方、クリスタルイヤフォン(セラミックイヤフォン)は電気信号を空気振動に変えて人間の耳で聴こえるようにする道具です。
もう少し説明を加えると、電気信号を空気振動に変換するところですが、少し時代の変遷があってクリスタルイヤフォンが最初に登場してその後、クリスタルイヤフォンはセラミックイヤフォンに置き換わりました。
クリスタルイヤフォンはロッシェル塩の結晶を用いて電気信号から空気振動への変換を行っていました。このロッシェル塩の結晶には圧電効果というものがあり、電気信号でこの結晶が伸縮する効果を利用して、この伸縮から得られる物理的振動をクリスタルイヤフォンの膜に伝えて、人の耳に聞こえる空気振動に変換します。しかし、このロッシェル塩の結晶は湿度に弱く経年劣化を起こすことから、経年変化の少ないピエゾ素子を用いたセラミックイヤフォンに徐々に市場を奪われてしまいます。
そのセラミックイヤフォンも行く末は安泰ではありません。電磁コイルを用いたイヤフォンが主流の昨今その活路を見いだせず、ゲルマラジオコミュニティーにしか顧みられていないため、イヤフォン市場ではどマイナーな道を心細い足取りで歩いているのが現状です。
ちょっと話がそれ気味にはなりましたが、クリスタルイヤフォンおよびセラミックイヤフォンにおいて、電気信号の変化を物理的な振動に変換する素子はともに圧電効果を利用しているということです。この素子はインピーダンス(電気抵抗)が高いという特徴があります。つまり、現在主流の電磁系エレメントを用いたイヤフォンと比べて抵抗値がかなり高いということをここでは押さえておいてください。
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