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統計の食わず嫌いを直そう(その8)、統計的に「王様の耳はロバの耳」と言うために山浦恒央の“くみこみ”な話(80)(1/4 ページ)

「王様の耳はロバの耳」と統計的に判定するには、どうすればいいのでしょうか?ロバの耳かも?という仮説を“検定”するための基本的な考え方を学びます。

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1.王様の耳はロバの耳か?

 王様の耳がロバの耳であることを知った王様専属の床屋が、このことを胸にしまっておくのが苦しくて、ついに山へ行って穴を掘り、穴に向かって「王様の耳はロバの耳」と叫び、穴を埋めた……。有名なイソップ物語の寓話(オリジナルはギリシャ神話)ですね。

 「王様の耳がロバの耳である」と統計学的に判定するには、「王様の耳がロバの耳であるという仮説が正しいかどうか『検定』し、正しい場合、王様の耳がロバの耳であると言える」となります。

 今回も前回に引き続き、「検定」について解説します。新しいツールを導入したプロジェクトで生産性のデータを収集し、新ツールの効果を証明するには、データを収集して、検定しなければなりません。

ロバ

2.母平均の差の検定

 「検定」とは、2つのグループの母集団の平均に差があるか、確認する手法です。「王様の耳がロバの耳である」と判定するには、「王様一族の耳のデータ」の平均と、「国民の耳のデータ」の平均に差があるかチェックします。また、プロセス改善を実施し、差があると判定できれば、「効果がある」と言えるし、差が無ければ「効果無し」となります。

図.1 検定手順
図.1 検定手順

 図.1に、前回示した「検定手順」を再掲します。以下、詳細な手順を示します。

2.1 仮説を立てる

 統計学では、表.1のような仮説を設定します。

表.1 2種類の仮説
仮説の種類 意味
帰無仮説 否定したい仮説(例:王様の耳は国民と同じ)
対立仮説 採用したい仮説(例:王様の耳はロバの耳)

 表.1には2種類の仮説を示しました。統計学では、否定したい仮説と採用したい仮説を立てます。否定したい仮説を「帰無仮説(*1)」、採用したい仮説を「対立仮説」と呼びます。使い分けは、まず帰無仮説を立て、それを否定(*2)できれば、対立仮説が採用(*3)されるという仕組みです。よって、帰無仮説、「王様の耳は国民と同じである」を否定し、対立仮説、「王様の耳はロバの耳(ほど大きい)」が採用されれば、「王様専属の床屋」の判定は正しいと言えます。

(*1) 無に帰したい仮説、つまり却下したい仮説と考えると分かりやすいでしょう。
(*2) 仮説を否定することを棄却と呼びます。
(*3) 採用することを統計学の用語で「採択」と呼びます。

 実際に仮説を立てる場合、どうすればよいでしょうか。表.2に帰無仮説、対立仮説の立て方を記します。

表.2 仮説設定
グループAの母平均μ1, グループBの母平均μ2として考える。
帰無仮説: μ1 =μ2 (μ1とμ2 は等しいという仮説)
対立仮説: μ1 ≠μ2 (μ1とμ2 は異なるという仮説)
    : μ1 >μ2 (μ1の方が大きいという仮説)
    : μ1 <μ2 (μ2の方が大きいという仮説)

 表.2では、帰無仮説と対立仮説の立て方を示したものです。まず、帰無仮説と対立仮説を1つずつ設定します。対立仮説の立て方は、3パターンあります。どの対立仮説にするかは、場合によって目的によって異なります。

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