MONOist PoC活動の成功事例についても教えてください。
大園氏 2つの成功事例を紹介する。1つ目は、「形状記憶機能を持つ樹脂シート(開発品)」の事例だ。この樹脂は、引っ張って伸ばしても、ドライヤー程度の熱(または乾燥機などの熱)を加えると、瞬時に元の形状に縮んで戻るというユニークな特性を備えている。さらに、この伸び縮みを何度でも繰り返すことが可能だ。
当初、INCと事業部の担当者が「面白い開発品がある」と資料や実物(シート単体)を用いて、この開発品を有名スポーツブランドに提案したが、期待した反応にはつながらなかった。
そこで、このスポーツブランドの製品を調べたところ、障がい者や子ども、手が不器用な人でも使いやすい製品の開発をコンセプトとして掲げていることが分かった。こうしたコンセプトを踏まえて、このスポーツブランドが市販しているナップザックに開発品の樹脂シートを熱ラミネートし、熱を加えることで自動的に折り畳まれる試作品を開発した。
この試作品を披露しつつ、「この開発品を使用すれば、自動でジャケットのフードが収納される機能を搭載できる可能性がある。山登り中に雨が降るとジャケットの襟元に収納されたフードを使うことがある。手が不自由な方でもフードの展開は簡単だが、折り畳む操作が必要な収納は難しい。そのような方が山登りから帰ったあと、自宅でジャケットを洗濯し、そのまま乾燥機にかければ、乾燥機の熱でフードが自動で畳まれ、手作業を省略できる」とこのスポーツブランドのチームリーダーにプレゼンテーションした結果、「Super Cool!」との反応をいただき、サンプル提供へと至った。
2つ目は、射出(インジェクション)成形により、意匠性が高いアクリル製の車載インテリアを開発した事例だ。当社は、透明度が高く、傷がつきにくい高品質なアクリル樹脂製品を展開している。アニメキャラクターのアクリルスタンドなどにも広く採用されているこの素材を、「自動車の車内インテリア(内装材)」に応用できないか、というアイデアが社内で生まれた。
高級感を持たせる目的で、パーツにはある程度の「厚み」と、意匠性を高めるための「ラメ(光輝材)」を入れることを想定した。しかし、ここに製造プロセス上の大きな壁があった。
通常、水族館の巨大な水槽のように分厚いアクリル製品を作る場合、「キャスト(注型)製法」が用いられる。モノマーを型に流し込み、ゆっくりと重合させて固めていく手法だ。しかし、この手法には2つの短所があった。
1つ目は、自動車部品として求められる「大量生産(低コスト/短納期)」に向いていない点だ。2つ目は、ゆっくり固まる間に、重力によってラメが下部に沈殿(沈降)してしまい、均一で美しい意匠性が保てない点となる。
これらの短所と自動車業界のニーズを踏まえて、コストと量産性をクリアするためには、金型に樹脂を高速で流し込んで成形する射出成形がベストだと考えた。
しかし、分厚いアクリルパーツを、インジェクションで、しかもラメを均一に分散させた状態で成形するというのは、技術的に非常にハードルの高い挑戦だった。
そこでINCとPoC部門は、この課題に対して社内で徹底的な検証を行った。研究部門の知見を結集し、インジェクション成形の条件や素材の配合を細かく調整した。こうした試行錯誤の末に完成したのが、ラメが美しく均一に分散された、分厚く重厚感のあるアクリルのプロトタイプだ。
キャスト製法ではラメが沈んでしまう厚い意匠パーツが、車載要件を満たすインジェクション成形で量産可能であるという明確なエビデンス(実物)を手にしたINCは、自信を持って大手自動車内装メーカーに提案を行った。
結果として、このプロトタイプが顧客の目を引き、「これなら自社の内装デザインの幅を大きく広げることができる」と高く評価された。その後も継続的なコミュニケーションにつながっている。
MONOist 今後の展開について教えてください。
大園氏 INCのミッションは新事業とイノベーションの創出だ。そのために、単なる素材メーカーとしての枠を超えて、顧客の課題を解決するソリューションを提供するビジネスの構築を目指している。
その実現に向けて、試作品の開発/提案にとどまっている現在のPoC機能をさらに発展させ、顧客とともに価値を検証しながら事業化の可能性を探る取り組みにも挑戦していきたい。
顧客とともにPoCを行う過程で、これまでよりも一歩踏み込んだ事業の可能性を各事業部のメンバーに理解してもらい、そうした考え方をマインドセットとして定着させていきたいとも考えている。
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