MONOist つくば研究センターのPoC機能を本格化させた背景を教えてください。
大園氏 その背景を説明するために、INCのターゲットについて触れる。INCでは、直接の販売先であるメーカーだけではなく、一般消費者に製品を販売するブランドオーナーに提案することも意識している。サプライチェーンのディシジョンメーカー(決裁者)であるブランドオーナーと接点を持つことにより、最終消費者のニーズを把握することに努めている。
さらに、INCでは新しい製品や技術を開発する際に、ブランドオーナーの「アンメットニーズ(まだ満たされていない要望)」を具体的な形にして対話することが、イノベーション創出の第一歩と考えている。
ブランドオーナーの担当者はクラレの素材そのものではなく、最終製品や顧客価値に関心を持つことが多い。そのため、製品の提案で工夫が必要となった。例えば、素材のペレットなどを見せつつ、「弾性率が高い」「耐久性に優れる」と利点を説明しても、それが最終製品にどのような価値をもたらすのかまでは伝わりにくかった。
当社の事業部メンバーも、直接の販売先とのやりとりが中心だったため、ブランドオーナーに効果的な製品のプレゼンテーション方法を模索していた。試行錯誤の末にたどり着いたのは、当社の素材を活用した試作品を披露しつつ、「クラレの素材を活用すると、ブランドオーナーの最終製品でどのような価値が生まれるか」と“顧客の言葉”で紹介することだった。端的に言うと、販売先のメーカーは素材の機能を意識していたが、ブランドオーナーは素材の機能とその機能がもたらす価値をつないだストーリーを求めていた。
そこで、つくば研究センターのPoC活動を本格化させた。具体的には、ラボスケールの成形加工技術を活用し、自社でのモノづくり体制を構築した。これにより、当社の素材を用いてスピーディーに試作品を製造し、顧客提案時に実際に触っていただくことにより、機能や顧客価値を訴求しやすくなった。
MONOist つくば研究センターのPoC機能を本格化させる上で、苦労した点はありますか。
大園氏 つくば研究センターでPoCを担うメンバーは研究員であるため、普段はブランドオーナーと直接接する機会が多くない。そのため、ブランドオーナーの要望を研究開発に必要な技術要件へ落とし込む工夫が必要だった。例えば、「世界記録を出せるシューズを求めている」という要望が寄せられても、そのままでは試作品開発に結び付けることは難しい。
そのためINCでは、こうした要望を踏まえながら、使用する素材のイメージやコンセプトをPoC部門に伝達し、試作品を作成している。その上で、試作品のデータ計測も依頼している。つまり、INCではブランドオーナーの要望を研究員が理解できる情報に「翻訳」して、理解を後押ししている。
MONOist INCの取り組みとPoC機能の本格化により得られた成果について教えてください。
大園氏 これまでは、直接の販売先であるメーカーに当社の素材を提案し、メーカーが試作品を作成して、エンドユーザーであるブランドオーナーが確かめていた。一方、ブランドオーナーに直接アプローチする場合には、製品採用までにかかる時間の短縮が期待できる。
PoC部門が機能することで、ブランドオーナーが普段扱っている最終製品に近い形の試作品を提供でき、打ち合わせの場で「これが欲しいんだよ」と言ってもらえたこともある。その場で、「クラレのこの素材をOEMに送って、製品化を検討しましょう」となったケースも存在する。
加えて、単独の事業部では扱いが困難な案件に対して、INCが調整役となり各事業部を横断的につなげることで、会社全体としての挑戦がしやすくなった。以前は、各事業部がこうした案件に手を出しにくく、コンセプトの作成や検証、試作品の製造と評価に時間がかかっていた。今回の取り組みにより、こうした時間が短縮できるようになった。
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