海事DXで“次世代の海事ソフト”が現場で使われなくなる理由船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2026年04月13日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

VMSは“中枢”だが“答え”ではない

 海事オペレーションにおいて、VMSは長らく中枢的な役割を担ってきた。契約条件に基づく航海計画の策定、実行管理、報告業務の整理を1つの枠組みで扱えるVMSは、運航と事業の橋渡し役として不可欠な存在だ。OrbitMIの説明会でも、Lee氏から、VMSの価値そのものを否定する発言は一切なく、むしろVMSが持つ強みを正しく認めた上で、VMSの限界を整理している。

 VMSは、決められた前提に基づいた航海管理を得意とする。チャーターパーティー(CP)に定められた条件、計画時点で想定された気象、燃料消費、ETA(Estimated Time of Arrival:到着予定日時)などを基準に、航海が契約通り進んでいるかを確認する。その一方で、実際の運航ではこれらの前提が絶えず揺らぐ。天候は変化し、潮流は想定を外れ、船体の状態も一様ではない。そうした変化をリアルタイムに織り込み、「今この瞬間、最善の判断は何か」を導き出すことは、VMS単体の“守備範囲”を超えている。

 この説明でLee氏は「VMS runs the voyage. OrbitMI runs intelligence.」という表現を用いた。VMSは航海を“回す”ための中枢であり、契約と業務を秩序立てる一方で、航海の途中で生じるズレやリスクを検知し、どこに介入余地があるのかを示すのは、別のレイヤーの役割だという。これはVMSの欠陥を指摘するものではなく、VMSの能力とリスク探知で求められるソリューションが異なるという認識といえる。

 VMSに「答え」を求めてしまうと、その判断はどうしても逸脱が起きた理由を後から分析して次に生かすといった事後的なタイミングになってしまう。いわば“航海に関するデータを取得した後”になる。そのため、運航中にリスクを避けるための選択肢を広げることにはつながりにくい。OrbitMIが示したのは、VMSを中心に据えつつ、その周囲にリアルタイムの“知能”を重ねることで、航海を「管理する」段階から「改善し続ける」段階へと引き上げるといえるだろう。

VMSは入力データの信頼性や航海中の即時判断まで担えるのかという問題がある VMSは運航の中枢だが、入力データの信頼性や航海中の即時判断まで担えるのかという問題がある。これは管理の枠組みとリアルタイム知能の役割の違いに起因するといえるだろう[クリックで拡大] 出所:OrbitMI

規制対応が「後処理」では回らない

 GHG排出を巡る規制は、海事オペレーションの中で急速に面倒な存在となりつつある。EU MRV(Monitoring、Reporting、Verification)やIMO DCS(Data Collection System)、CII(Carbon Intensity Indicator)、EU ETS(Emission Trading System)など、環境規制の順守に伴って求められる報告内容は年々複雑化し、その対応は多くの船社にとって大きな負担となってきた。現場では、航海が終わった後にデータを集め、関係組織へ提出し、差し戻しに対応するといった「年末の大掃除」のような作業が常態化している。説明会でLee氏から示されたのは、こうした後処理型の規制対応が、もはや持続しないという認識だった。

 この問題の本質は、コンプライアンス順守のための作業が運航と切り離されている点にある。GHG排出量や効率指標は、日々の航海判断の積み重ねによって決まるにもかかわらず、その確認は航海終了後に行われる。このフローでは、規制対応は常に「結果の修正」に追われることになる。OrbitMIが提案するのは、検証を連続的なプロセスとして組み込む仕組みだ。運航中からデータを自動的にチェックし、不整合を早い段階で是正することで、提出時点ではほぼ整った状態を作る。環境関連データ取得ソリューションとのAPI連携による日次レベルのフィードバックは、その運航内組み込み型検証プロセスを構成する実装要素といえる。

 このアプローチは、規制対応を単なる報告業務から、運航判断の一部へと位置付け直す視点にもなる。ある航路を選ぶことで排出量やCII評価がどう変わるのか、EU ETSの負担がどの程度増減するのかを事前に把握できれば、航路の選択は受動的なものではなくなる。このことは、コンプライアンスへの順守がコストであった状況から戦略的判断材料とできるようになるターニングポイントにもなる。

 このことは、環境関連規制の強化は避けられない制約である一方で、意思決定の前提条件として使えることを示している。後から帳尻を合わせるのではなく、最初から織り込んだ上で航海を設計する。そのためには、運航データと規制要件が同じ思考回路で扱える基盤が不可欠だ。OrbitMIが想定する規制対応は、負担軽減のための自動化にとどまらず、運航の質そのものを変えるための仕組みとして位置付けている。

OrbitMIのソリューションはAPIで連続接続したワークフローで完結する OrbitMIのソリューションでは航海データ、排出報告、検証、当局提出までをAPIで連続接続したワークフローで完結する。規制対応を事後処理ではなく運航プロセスに組み込みリアルタイムでデータを収集できる[クリックで拡大] 出所:OrbitMI

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