AIの組み込みソフトウェアへの影響は加速しています。従来、複雑な組み込みシステムはルールベースのロジックや手作業で調整されたアルゴリズムに依存していましたが、現在は高度なAIモデルをマイクロコントローラー、FPGA、GPU、NPUなどに直接展開する流れが進んでいます。この統合により、エッジデバイスがクラウド接続に頼らず、より迅速かつスマートな意思決定をローカルで行い、システムのレジリエンスも向上します。
組み込みAIモデルへの移行を支えるのは、モデル圧縮手法、自動コード生成、システムレベルのモデルテストという3つの技術です。プルーニングやプロジェクションなどの構造的モデル圧縮や、量子化などのデータ型圧縮によって、複雑なモデルがエッジデバイス上で効率的に動作します。自動コード生成ツールは、圧縮済みAIモデルをC/C++コードに変換し、プラットフォーム固有の実装に最適化します。システムレベルのモデルテストは、圧縮/展開されたモデルが組み込みシステム全体で確実に動作することを保証し、機能的な正しさや実環境での挙動を検証します。これらのツールにより、エンジニアは構想から展開まで迅速かつ自信を持って進めることができます。
組み込みAIモデルが重要な役割を果たす応用分野の一つがバーチャルセンシングです。エンジニアは、AIモデルを用いて他のセンサーデータから物理量を推定することで、直接測定するのが困難または高コストな値を推定できます。この手法により、追加のハードウェアセンサーを増やすことなく、効率的なモニタリングと高い精度と信頼性が両立できます。
例えば、メルセデス・ベンツはリアルタイムの質量流量推定のためにディープラーニングを活用したバーチャルセンサーを開発し、これらをECU(電子制御ユニット)にローカルで実装する組み込みAI手法を採用しました。バーチャルセンシングの進歩によってコストや複雑さが低減し、幅広い組み込みアプリケーションで、より知的で応答性の高いシステムが実現されています。
エンジニアリングの課題が規模/複雑性ともに増大する中、AIベースのROM(Reduced Order Modeling:縮約モデル)技術は今後ますます一般的になっていきます。AIベースのROMは、詳細な第一原理シミュレーションと、迅速な設計探索/最適化/リアルタイムシミュレーションへのニーズとのギャップを埋めるのに役立っています。AIベースのROMは、計算効率と高い予測精度の両立を可能にする新たな可能性を生み出しています。
AIベースROMは、計算効率の高いニューラルネットワークや他のAIアーキテクチャを用いて、複雑な物理モデルの本質的なダイナミクスを抽出/簡略化します。これにより、エンジニアはシミュレーションや最適化をより高速に実行でき、複雑なシステムのリアルタイム解析も可能になります。AIベースROMの一例は、高精度シミュレーションモデルの入出力データだけを使って学習する純粋なブラックボックスAIモデルです。また、エンジニアの物理知識を活用するハイブリッドな物理インフォームド機械学習モデルもあり、こちらは少ないデータで学習できるため、高価なフルオーダーモデルのシミュレーション回数を削減できます。ハイブリッドモデルは汎化性能にも優れ、異なる入力信号やパラメーター値に対しても信頼性の高い予測を提供します。AIベースROMは、自動車、航空宇宙、エネルギー分野など多くの産業に変革をもたらすでしょう。
自動車工学でも、ROMはEV(電気自動車)/PHEV(プラグインハイブリッド車)の充電戦略の最適化、バッテリー寿命の延長、安全機能の向上などに貢献します。AI搭載モデルは電気化学的なダイナミクスを捉え、BMS(バッテリーマネジメントシステム)のロジック検証のための高速なシステムレベルシミュレーションを可能にします。AIベースのROMはまた、航空宇宙エンジニアが飛行中の空力や構造応答を予測するのにも役立ちます。計算負荷を軽減することで、リアルタイムシミュレーションを可能にし、より軽量で効率的な航空機設計や、風洞実験に頼らない材料テストの加速を支援します。エネルギー分野では、ROMは設備性能やシステム挙動の予測に活用され、これはグリッドの安定性や予知保全に不可欠です。ROMは変圧器やタービンなど重要な資産の故障予測にも役立ちます。
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