真空圧の推移から読み取れるその他のモードについて、その判定ロジックを上位制御機器側で構築するとなると制御設計者にとっては大きな負担になります。しかし今日においては、それら状態監視のロジックをエジェクターの付加機能として搭載している吸着搬送用デバイスが製品化されています。
エジェクターに搭載されたマイコンが、エジェクターの駆動を制御しながらその傍ら自律的に不具合兆候のパターンを見張り、その後の警告発報までをカバーしてくれます。ここまでエジェクターを話題としていましたが、真空ポンプについても同様の観点で状態監視を行うことができ、またその自律監視機能が搭載されたポンプも上市されています。
ここで、エジェクターやポンプなどの真空発生器の通信制御対応について少しだけ触れておきたいと思います。
機器が自律して監視し判定する不具合兆候は複数あり、複数あるうちのどれが観測されたかを上位制御機器側へ電気的に伝えることになります。ベーシックな真空吸着システムでは制御、伝達方法としてデジタルI/Oを使い必要数分架線する方法をとっていましたが、状態監視機能を生かした吸着搬送システムを構築する場合には、この方法だと架線が多くなり煩雑になってしまいます。
今日ではIO-Linkや産業用イーサネットなど、産業用として簡単に使用できる通信手法が一般的になってきており、それらを用いれば少ない架線で(ないしは無線で)情報伝達が行うことができます。IO-Linkや産業用イーサネットなど、産業用として用いられている通信規格に対応し、上位制御機器と通信を介して接続され制御できる、スマート化の要件にかなう吸着デバイスが増えてきています。
IO-Linkなどに対応した吸着機器の通信制御の仕組みは比較的簡単です。上位制御機器と吸着機器との間を通信接続すると、既定長のビット列がサイクリックに往復し、情報が授受されるようになります。上位制御機器から真空吸着システムへ向かうビット列には「吸着ON/OFF」などの運転指令などが含まれ、逆に真空吸着システムから上位制御機器へ戻ってくるビット列には状態監視警報などを含むステータス情報が反映されます。
状態監視警報などは、前述のような観点に基づきデバイス内部で複眼的にシステム動作を診断し、捉えた兆候に応じてそれぞれ異なるビット位置で警報出力します。そのため、上位制御機器では「何番目のフラグが立ったか」を確認するだけで、不具合兆候の内容ひいては推定要因まで把握することができ、システムの視認性が格段に向上すると考えます。
同時にユーザーは複雑な解析ロジックを設計する必要がなく、簡単な運転制御シーケンスを組むだけで、設備の運用と状態監視を両立できます。
状態監視機能までをカバーする吸着把持システムを入手して工程に投入または既存のものを置き換えていくことで、状態監視の機能を工程に簡単に実装することができます。
今回は、自動機による真空吸着搬送に焦点を当て、基本的な構成要素と空圧回路について解説しながら、それらが陥る可能性がある不具合について例を示し、不具合モードとその捉え方について整理しました。
吸着パッドの損耗や管内/エジェクターの汚損などは、運用する中で発生する宿命的な物理現象で避けることはできませんが、状態監視を行うことで、生産へ影響を与えないメンテナンスが可能になると考えます。状態基準で適切なメンテナンスが可能になることは、事後保全や時間基準保全に比べ経済的です。
吸着搬送の工程は主役になることは少ないものの、有価物品を物理的に把持し移動させる役割を担っている以上、止まらない工場を実現する上でオペレーションの確からしさを高めるには必ず目を向けなければならないポイントだと考えます。工場設備の最適化をにらみながら、まず見える化/状態監視の仕組みの構築をご検討ください。(連載完)
小川尚希(おがわ なおき)
シュマルツ株式会社 ビジネスディベロップメント
工学修士(感性工学)。信州大学大学院にて介護用装着型アシスト装置や高分子人工筋肉をテーマにメカトロ系・人間工学系領域を専攻。これまでオカムラ(旧岡村製作所)、ルネサスエレクトロニクス他経て、2024年から現職。社のスローガン「重力負荷から人々を解放する」に共鳴しながら、FA/省力用機器の国内マーケティング活動やPSF活動を行っている。
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