今回のアンケートでは、技術者の24.9%が「生成AI(ChatGPTなど)を使って技術的な課題を調査した経験がある」と回答している。この数値は、展示会(48.7%)や論文/特許(36.4%)といった伝統的な情報源に並ぶ割合である。
この結果は、ChatGPTが単なる試験的なツールではなく、技術情報の収集チャネルとして明確に選ばれ始めていることを示している。特に注目すべきは、その用途が「一般知識の調査」「概念整理」「課題の見取り図把握」など、探索のごく初期段階で用いられている点だ。
インタビュー調査でもその傾向は裏付けられており、「まずChatGPTで概要を押さえてから、必要に応じて展示会や論文にあたる」といった声が聞かれた。また、「Google検索はほとんど使わなくなった」と話す技術者もおり、検索を前提としない調査スタイルが一部で生まれ始めていることがうかがえる。
ChatGPTは今や、「他の手段と並列して使うツール」ではなく、目的や状況に応じて選ばれる“調査の入り口”の一つとして、現場の中で定着しつつある。
従来、製造業のデジタルマーケティングは「認知拡大」を出発点としていた。そこではWebサイトを訪問してもらうための仕組み、すなわちGoogle検索を経由して“見つけてもらう”ことが前提とされてきた。
この流れの中で重要視されてきたのが、SEO(検索エンジン最適化)である。SEOとは、Googleの検索結果において自社のWebサイトを上位に表示させるための工夫であり、“Googleで検索するユーザー”に対して効果的な施策であった。
ところが、今回の調査結果が示すように、技術者の間では「最初の調査段階」においてGoogle検索を使わず、ChatGPTなどの生成AIを活用するケースが増えてきている。つまり、調査行動の出発点が変化しつつあるということだ。
検索の起点がGoogleからChatGPTへと移行すると、当然ながら「上位表示されること」よりも「引用されること」が重要となる。検索エンジンで目立つ構造ではなく、生成AIに取り込まれやすい文脈や構成こそが、情報設計の鍵となる。
これまでのSEO施策が「Google検索を前提とした情報設計」であったとすれば、今後は「生成AIに選ばれることを前提とした情報設計」が求められていく可能性がある。
情報の検索行動には、大きく2つの方向性がある。1つは「ナレッジリサーチ」、もう1つは「ジョブリサーチ」だ。
ナレッジリサーチとは、特定の技術や概念についての知識を得ることを目的とした検索行動であり、「CFRPとは?」「トポロジー最適化の仕組み」といったキーワードが代表例である。これに対してジョブリサーチは、自身の業務上の課題を解決するための情報探索であり、「〇〇の課題に対応できる企業を探したい」といった、より具体的で実務に直結した検索が該当する。
これまでのSEOでは、ナレッジリサーチ向けには「『〇〇とは』型の解説コンテンツ」を、ジョブリサーチ向けには「課題解決型の提案コンテンツ」を用意し、それぞれのニーズを取り込んできた。特にナレッジ系の検索ボリュームは多く、“基礎知識コンテンツ”を大量に制作することでアクセスを獲得するスタイルが一般的であった。
ところが、生成AIの普及がこの構造に変化をもたらしつつある。
まず、ナレッジリサーチの段階において、ChatGPTなどの生成AIによって必要な情報が完結してしまうケースが増えてきている。AIの精度が高まるにつれ、検索者がいちいち複数のページを開いてファクトチェックを行う手間が減り、「ChatGPTに聞けば大体分かる」と感じるようになってきている。これはすなわち、ナレッジ系コンテンツが“読まれないまま終わる”ケースが増加していることを意味している。
一方で、より現実的な業務課題を解決したいというニーズ、すなわちジョブリサーチは引き続き存在しており、むしろAIによって強化されている側面もある。例えば、ユーザーがChatGPTに「〇〇の課題を解決できる企業を教えて」と尋ねると、AIが候補となる企業を列挙する。そして検索者は、提示された企業が自身のニーズに合っているかどうかをWebサイトで確認する、という流れになる。
このような調査行動の変化は、「検索される記事を作る」ことから、「AIに取り上げられ、選ばれる存在になる」ことへの移行を意味している。
“読まれるため”のコンテンツ設計ではなく、“引用されるため”の情報構造をいかに構築するか。生成AIが調査の入り口となる時代においては、この視点が今後ますます重要になっていく。
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