最初に、ミニ四駆のモデリングについて考える。図3に、ミニ四駆の構成を示す。ミニ四駆の構成は、基本的に電気自動車(EV)と同様である。
図4に、ミニ四駆の動作原理を示す。駆動源はバッテリーであり、これによりモーターが駆動され、回転運動が発生する。モーターのトルクはギアによって増幅され、さらにタイヤによって回転運動が並進運動へと変換され、車体が前進する。
実際のミニ四駆では、複数のギアを介してモーターのトルクが増幅されてからタイヤへ伝達されるが、ここでは説明を簡単にするために、1つのギアで代替する。また、ミニ四駆の性能は、ギア間のギャップや潤滑状態で大きく左右されるが、本稿ではその効果も無視する。
ミニ四駆とEVの大きな違いは、制御の有無にある。ミニ四駆には制御系が搭載されておらず、蓄電池を駆動源として、決められたコースを直進するだけである。そのため、ミニ四駆は電池の電圧降下に伴って徐々に減速しながら、電池が尽きるまでコースを走り続ける。
図4を基に、ミニ四駆のモデルを作成すると、図5のようになる。電池については、その中身をブラックボックスとして扱っているため、電気回路の中の一要素Eとして扱っている。
モーターのモデリングは既に述べた通りである。ギアはトルクを変化せるものであり、ここではトルクを増幅したいため、ギア比Grは高めに設定している。ギア比とは、入力側(モーター)のギアの歯数と、出力側(タイヤ)のギアの歯数との比である。
ミニ四駆では、モーター側のギアの歯数が少なく、タイヤ側のギアの歯数が多くなっている。これにより、出力トルクを増大させている。このような構成は、トルクを増幅させる一方で回転数(=速度)を低下させる。これを「減速機」という。なお、回転数を増加させてトルクを減少させる構成は「増速機」と呼ばれ、風車などに使用されている。
ミニ四駆の車体は、このようにして伝達されたトルクにより走行する。
図5を見て、勘の良い方は気が付かれたと思うが、各要素における“2入力2出力”の各2状態量の積は、
iVemf=Tω=Twωw=Fv≡P
となり、全て等しく、さらにパワーの次元を持つ。つまり、製品においては、入力されたパワーがその形態を変えながらも、途中に損失がない限り、同じ大きさで伝達されていることを意味している。
これは、既に述べたフローで考える現象問題と同じである。ちなみに、図5において各要素の入出力の数と、それに対応する式の数は同じである(これは当然のことで、これが一致しないと解くことはできない)。これも、このモデリング方法の便利なところである。
図5のモデルを、「Modelica MSL」で解いた例を図6に示す。ここでは、バッテリーのSOC(State of Charge:充電状態)を考慮しており、既に述べたように徐々に減速しながら、電池が尽きるまで走行している。
図6の右下に、拡大図を示す(これでもよくは分からないが……)。よく見てみると、ミニ四駆が停止している時点でも、電池にはまだエネルギーが残っていることが分かる。これは、車両(タイヤ)と地面の間の摩擦力で停止していることを意味する。すなわち、モーターはまだ動こうとトルクを出しており、これが尽きて、初めて電池も空になる。
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