ABCIは民間企業も利用可能であり、これまでにさまざまな成果を生み出してきた。ABCIの利用事例ページで公開されている民間企業は次の通りである(事例順、法人格は省略、分類は筆者)。
これらのうち、産業用冷凍機や食品加工機械を手掛ける前川製作所は、食肉に残っている骨を画像認識で検知する技術をABCI 2.0を使って開発した。当初は自社のGPUサーバで開発を進めていたが、性能的に限界があり、必要に応じてGPUを確保できるABCI 2.0を選択した。
物流向けの自動運転技術を手掛けるT2は、車両周辺の認識の研究にABCI 2.0を活用した。大量のGPUが使えるとともに、大容量のモデルやデータを扱えることが決め手になったそうだ。どちらも詳細はABCIの事例ページに掲載されている。
LLM(大規模言語モデル)の開発事例もある。Preferred Networksが提供している「PLaMo」、東工大(現東京科学大)と産総研が共同で開発した「Swallow」およびELYZAの日本語LLMの開発にABCI 2.0が使われた(図4)。いずれもABCI 2.0の計算ノード(増設分)の一部を最大60日間にわたって割り当てる「大規模言語モデル構築支援プログラム」で採択されたプロジェクトである。
ABCI 3.0でもさまざまな成果が上がることが期待される。
産総研ではAI開発の推進とABCI資源の活用を促進するために幾つかの取り組みを進めている。
AI人材の育成および交流を目的にしたのが2023年7月に開催された「LLMハッカソン」で、民間企業16社を含む20チームが参加した。NVIDIA日本法人であるエヌビディアなどの技術者もチューターとして協力し、LLMのトレーニングやファインチューニングに関するノウハウの共有が行われた。また、2025年2月には、稼働したばかりのABCI 3.0を使って「ABCI生成AIハッカソン」が開催され、PoeticsやTuringが参加して成果を挙げている(図5)。
「開発加速利用」制度もある。基盤モデル、生成AI、マルチモーダルAIなどの研究開発や人材育成を目的にした公的利用において利用料金をディスカウントする制度だ。また、東京圏以外の企業におけるAI開発を支援する「地方優先枠」の制度もある。
経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が推進する生成AI開発支援プログラム「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」の一環として、生成AIのトレーニングに必要なデータセットの利活用実証をテーマにした公募なども行われている。
ユーザーにとって使いやすい環境構築も図られていて、ソフトウェアスタックや学習済みモデルを提供する「AI Hub」、ブラウザからジョブの投入などが可能なポータル「Open OnDemand」などが提供されている。
こうした制度に限らず、一般利用(標準利用)も含め、国内トップクラスの性能を持つABCI 3.0の企業利用の拡大が望まれる。
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