船を知らなかったグリッドが“AIで海事を拡大”できた理由船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2025年01月16日 08時00分 公開
[長浜和也MONOist]

AIの提案理由を説明できないのは「怖い」

 グリッドのAI最適化では、「人間の職人レベルを超える」自動化も主要な目的となっている。これは、単に人間と同等の作業を行うだけでなく、正確さとスピードの両面で人間を上回ることを意味する。

 具体的には、配船計画の立案において膨大な数のパターンを高速で生成し、その中から最適な計画を選択する。その過程で、燃料費の最小化や労働時間の均一化といった複数の目的に対して最適な解を見つけ出す。

グリッドの構築した“海運”デジタルツインで配船業務を走らせて最適な解を探索する グリッドの構築した“海運”デジタルツインで配船業務を走らせて最適な解を探索する[クリックで拡大] 出所:グリッド

 このとき、最適化の手法として機械学習の結果を柔軟に活用する。機械学習の結果は計算時間短縮のためのツールとして位置付けられている一方で、開発期間の短縮と現場の要望に短期間で対応するため、過度に複雑な学習プロセスとならないようにしている。ただし、そのおかげで効果的な最適化ソリューションを短期間で提供できるという。

 このように、グリッドの機械学習に関する方針は法人クライアントが希望するサービスに特化した学習方法ともいえる。これは、プロジェクトごとの安定性と、学習の結果からAIが導き出す提案の根拠を説明できることを重視しているためだ。

 加えて、開発期間短縮(=早期の運用開始が可能)のため、学習期間を適度に抑制している。これにより、法人向けサービスとして重要な結果の一貫性を確保し、かつ、頻繁な変更を避けている。また、AIの判断プロセスを説明可能にすることで、クライアントの信頼を獲得しやすくなるという。「学習することで提案する内容が変わっていく理由を説明できないというのは法人が利用するシステムとしては怖いこと」(宮本氏)。

サブモジュール「ルートファインダー」の進化

 運航支援関連ソリューションとしては、2024年2月に開発が完了した「ルートファインダー」が、配船計画システムのサブモジュールとして開発がスタートしている。緯度経度を入力するだけで最適な航路を自動的に探索できるGoogle Mapsのような使い勝手で、2点間の距離や移動時間を簡単に算出できる。この機能により、船舶の最適航路の効率的な探索が可能になるので、配船計画の効率化だけでなく燃料消費量の最適化にも貢献することを目指している。

 ルートファインダーに限らず、グリッドでは、顧客ごとにカスタマイズ可能な共通コアを持つモジュール構造を採用している。例えば、出光興産向けと日本郵船向けのシステムにおいて基本機能は共通しているが、各社の業務特性に合わせてカスタマイズしている。

 主要なモジュールとしては、本船配船、コンテナ管理、港湾オペレーション、バース割り当てなどがあり、これらを組み合わせることで総合的な海運管理システムを構築できる。さらに、船主向けとオペレーター向けの異なるバージョンも用意できるなど、多様なニーズに対応できる柔軟性を持つ。

 宮本氏は、ルートファインダーの特徴として、その背後にある豊富な航路実績データと高度なアルゴリズムも訴求する。

 ルートファインダーは最適な航路の探索において単に理論上の最短距離を計算するのではなく、過去の船舶の航行データを活用するという。このデータには地球上のどの海域をどの程度の頻度で船舶が航行しているかという情報が膨大に蓄積されている。このデータの基となっているのは船舶自動識別装置(AIS)のログなので、船舶の位置(GPS)や速度(対地速度)をリアルタイムで取得できる。「これにより実際の航行パターンを正確に把握することができる」と宮本氏は説明する。

 ルートファインダーは、この膨大なデータを解析し、最も頻繁に利用されているルートを優先的に候補として提示する。加えて、各ルートの気象状況をリアルタイムで逐次取得することで気象の影響も反映できる。例えば、瀬戸内海ルートと太平洋ルートの気象状況を比較し、最適なルートを選択するという運用が可能だ(ただし、現時点では海流の影響を詳細に分析して反映することはできない)。

 さらには、航行時間を反映した目的地倉庫やコンテナヤードの在庫管理なども考慮した総合的に最適化された輸送計画も提案できるという。

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