粉体秤量や液体分注/希釈、調合を自動化するラボ作業ロボットシステム「alinetech LRS」の新バージョンについてアラインテックに聞いた。
近年、これまで研究者が手作業で行っていた粉体秤量や液体分注/希釈、調合など、ラボの業務を自動化するロボットシステムが注目されている。このロボットシステムにより、研究者は作業時間の短縮や作業負荷の低減を実現し、付加価値が高い作業に集中できるようになる。
こういった背景を踏まえて、アラインテックが開発したのがラボ作業ロボットシステム「alinetech LRS」の新バージョンである。アラインテック 開発部の上田隆幸氏にalinetech LRSの開発背景、新バージョンの開発課題と解決策、特徴、他社のラボ用ロボットシステムとの違い、今後の展開について聞いた。
MONOist alinetech LRSの開発背景を聞かせてください。
上田隆幸氏(以下、上田氏) 当社は対象の溶液にどういう物質がどの程度含有しているかを調べる高速クロマトグラフィー(HPLC)分析の前処理作業に多くの人手を要しているとの情報を受けた。それらの前処理作業を自動化すれば、売れる製品になると考え、alinetech LRSの開発を開始した。製品として発売したのは2020年だ。今回の新バージョンは既に受注を開始しており大手製薬メーカーの納入が決まっている。現在は2025年の納入に向けて製造している。
alinetech LRSが対象とするHPLC分析の前処理作業では、バイアル瓶に入れる液を生成する。手順は以下の通りだ。まず、mg単位の粉体サンプルを容器に測り取り、そのサンプルを専用装置で液体に溶解する。次に、その液体をホールピペットで測り取り、メスフラスコに注液。その液体をろ過(フィルトレーション)してバイアル瓶へ注液する。続いて、そのバイアル瓶をHPLCにセットする。
MONOist 新バージョンの開発課題を聞かせてください。
上田氏 開発の課題は6つあった。1つ目は「ガラス器具に公差がなく、割れやすいこと」だ。実験で用いられるガラス器具には公差が存在しない。そのため、使用されるガラス器具の寸法を実際に測定し、公差範囲を推測することで、公差のバラつきを吸収できるチャック機構を設計した。
2つ目は「液面合わせ方法の問題」だ。ホールピペットやメスフラスコの標線合わせには、メニスカス線という液体の円弧の面と標線を合わせる必要がある。しかし、通常の画像データだけでは合わせることができなかったため、標線を合わせるために新機構を開発した。
さらに、新バージョンの吸い上げと吐出では、比例電動弁により制御をしながら、標線とメニスカスをリアルタイムに撮影し、標線を合わせられるようにした。搭載されたチューブポンプと電動ピペットにより希釈液を注入/滴下し、標線と液面も画像処理により合わせられる。
3つ目は「多様なガラス器具サイズへの対応の問題」だ。ホールピペットは多く使われているものだけでも12種類以上あり、メスフラスコも7種類以上ある。それらに対し、1台で対応できるようにしなくては、顧客の予算に納まらないため、苦労して多品種に応じる設計を開発した。
4つ目は「多品種の容器、数への対応」だ。顧客が1日にラボの前作業として行うサンプルの作成数は多い場合、1日当たり60を超える。そのため、スタート時に多くのサンプルと使用する容器のセットが必要だ。それらの多品種かつ多量のサンプル、容器のストッカーの配置などのレイアウトに苦労した。
5つ目は「メスフラスコの開栓の問題」だ。一般的なメスフラスコはガラス製のすり合わせの栓を用いるが、この開栓を自動で行える装置が存在しなかった。そこで、当社独自で人間の力で栓をしたメスフラスコを開けられる手法を確立しそれを取り入れた装置を開発した。これによりHPLC分析の前処理作業でガラス栓を用いたメスフラスコを利用するという社内ルールがある企業も導入しやすい。
6つ目は「褐色メスフラスコへの対応」だ。メスフラスコには透明なメスフラスコと褐色のメスフラスコの2種類が存在するが、褐色のメスフラスコは標線が見えにくく、標線合わせ方法を確立するのに苦労した。これらの課題を解消しalinetech LRSを開発した。
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