2028年ロサンゼルス五輪は先進医療機器技術の万博になる!?海外医療技術トレンド(112)(2/4 ページ)

» 2024年10月11日 08時00分 公開
[笹原英司MONOist]

医療保険者としての米国オリンピック・パラリンピック委員会

 健康/ウェルビーイングに関連してUSPOCは、チームUSAのアスリート向けに、PPO(Preferred Provider Organization)型プランの「エリートアスリート健康保険プログラム(EAHI)」を提供するとともに、主要医療施設と連携して、日常的な医療や、外来診療・療法・カイロプラクティックケア、診断サービス、メンタルヘルス(入院・外来)、不妊治療支援、耐久医療機器(DME)、機能回復訓練、人工装具、薬剤・視力給付が受けられる医療ネットワーク(MN)を構築している(関連情報)。USPOCは、アスリート本人分の保険料を全額負担する他、通常のEHDIではカバーできない分を補償するために、医療支援基金を設けている。さらにUSPOCは、電子医療記録(EMR)プラットフォームも提供しており、アスリートの米国外遠征時の傷害/疾患にも保険が適用される仕組みを構築している。なお、海外の傷害/疾患に関するアスリートの医療データは、本人の同意の下で、米国内にあるサーバに転送・保存される。

 またUSPOCは、メンタルヘルス/メンタルパフォーマンスを強化しており、以下のような関連サービスを提供している。

  • メンタルヘルス登録(精神科医、サイコロジスト、スポーツサイコロジスト、精神看護専門看護師、フィジシャンアシスタント(PA)、認定臨床ソーシャルワーカー、認定マリッジ・ファミリーセラピスト、認定専門カウンセラー)
  • eホーム(在宅オンライン)カウンセリング
  • Headspace Plus(瞑想/睡眠モバイルアプリケーション)
  • チームUSA心理サービスサポートライン
  • WellTrack(認知行動療法モバイルアプリケーション)

 このように、デジタルヘルス技術を駆使したトップアスリート向け健康/ウェルビーイング関連サービスから集約されるデータを活用して、USPOCは、スポーツ医学関連領域の研究・エビデンスづくりにも積極的に関わっている。参考までに表3は、PubMedに収載された直近の査読付き科学論文誌に掲載されたUSOPC関連の研究成果物例を挙げたものである。

表3 表3 直近のPubMedに収載されたUSOPC関連の研究成果物例[クリックで拡大] 出所: National Library of Medicine「PubMed」(2024年10月7日時点)の収載情報を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 さらに、栄養学の分野では、USOPCの食事/栄養サービス部門が、コロラド大学コロラドスプリングス校(UCCS)と連携して、アスリートおよびアスリートをサポートする栄養士向けの食事支援ツール「The Athlete's Plate」を開発・提供している(関連情報)。

 加えて、USOPCの活動を通じて生成されるさまざまなオープンデータは、イノベーション創出支援にも活用されている。例えば、2024年4月12〜13日に開催された「2024年コネティカット大学スポーツ分析シンポジウム(UCSAS 2024)」に合わせて、「USOPCデータチャレンジ」が実施された(関連情報)。この企画は、米国のオリンピック男子/女子体操競技チームが、2024年パリ夏季オリンピック大会における成功を最大化するために、5人の選手グループを特定することを目標としており、USCOPからは、2021年東京大会および2024年パリ大会に向けたシーズン中の主要な国内外の体操競技大会のデータが参加者に提供された(関連情報)。審査の結果、高校/大学部門でデューク大学、大学院部門でイエール大学のチームが優勝している。

 このような動きは、2028年ロサンゼルス夏季オリンピック・パラリンピック大会に向けて拡大することが予想される。USOPCは、海外のスポーツ団体や教育・研究機関、スタートアップ企業などにも門戸を開いており、今後の日米間の連携に期待したい。

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