産業メタバースで変わりゆく都市づくり、進むスマートシティ構築の未来(後編)デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(6)(6/6 ページ)

» 2024年08月06日 07時00分 公開
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ゼネコンプレイヤーが都市領域のデジタルツイン化を図る

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 清水建設は1804年創業の大手ゼネコン企業である。同社は従来の土木/建築のモノづくりのみを行う企業から「デジタルゼネコン」へ変の転換を図っている。同社はデジタルゼネコンを、「リアルなモノづくりの知恵と先端デジタル技術により、モノづくりをデジタルで行い、リアル空間とデジタル空間の両面でサービスを提供する建設会社」と定義する。下の写真は建築や土木で取り組むデジタルゼネコンの取り組みの一例だ。これらの取り組みにおいてもデジタルツインがキー技術となっている。

図14:清水建設の建築領域(上)/土木領域(下)のデジタルゼネコンの取り組み 図14:清水建設の建築領域(上)/土木領域(下)のデジタルゼネコンの取り組み[クリックして拡大] 出所:清水建設

 清水建設ではスマートシティ領域において、従来の建設プロセスとともに、経営陣のコミットメントのもとデジタルツインを活用した取り組みを進めている。東京都の豊洲エリアを先行モデルとして、スマートシティ開発を行っている。清水建設や三井不動産を事務局に、豊洲に関連する企業や、IT企業など技術系企業、行政(東京都江東区)、アカデミア(東京大学や芝浦工大)の産学官が連携しながら豊洲のスマート化を進めている。

 開発エリアの豊洲六丁目街区では、BIMを中心とした建物、地盤、地質、インフラなどの3Dデータと、人流や物流、エネルギー、環境、防災、風や温度などのセンシングデータをもとにデジタルツインを構築。最適な街づくりに向けてシミュレーションや、サービス実装を行う。

デジタルツイン「バーチャル豊洲」を構築

 豊洲のデジタルツイン化においては、後述のデジタルツイン領域を手掛けるAutodeskと連携している。地上のみならず、地下インフラも含めたデジタルツイン化を図っており、人流や交通などのリアルタイムでのモニタリング、シミュレーションも行う。

 デジタルツインを活用して、2020年には食と防災、2021年は観光とヘルスケアと対象となる実証サービスの分野を拡充してきた。2022年はモビリティや新規サービス創出を追加する方針を出した。過疎地域の交通や高齢化など社会課題に対応する山間部のスマートシティに対して、豊洲は都市型のスマートシティと位置付ける。都市型の自動運転をはじめ、より快適で便利な都市づくりをモデルケースとする。

 今後はスマートシティを支えるデータ連携基盤である都市OSを他スマートシティとつなぎ、APIを介したサービスの連携も行う。東京都の大丸有(大手町/丸の内/有楽町)や、竹芝などのスマートシティとの相互利用を想定する。

図15:豊洲におけるデジタルツイン(左)/人流シミュレーション(右) 図15:豊洲におけるデジタルツイン(左)/人流シミュレーション(右)[クリックして拡大] 出所:清水建設
図16:豊洲6丁目街区におけるデジタルツイン(交通・人流のリアルタイムシミュレーション(左)、地下インフラの可視化・分析(右)) 図16:豊洲6丁目街区におけるデジタルツイン(交通・人流のリアルタイムシミュレーション(左)、地下インフラの可視化・分析(右))[クリックして拡大] 出所:清水建設

エッジ分野の建物OS「DX-Core」が強み

 同社のスマートシティやデジタルツインの展開にあたり、強みは建物OSの「DX-Core」だ。以前から、業界企業の中でも特にITや制御技術に力を入れてリソース、技術強化を行っており、蓄積した建物の制御技術やノウハウを強みとしてきた。ビルの中央監視システムの内製化や、強化してきたエレベーターのインテグレーション技術、BIMとロボットの連動などだ。

 これら蓄積してきた建物制御の技術、ノウハウを結集したのが、建物OSのDX-Coreである。DX-Coreは、建物内の建築設備やロボット、IoT(モノのインターネット)デバイス、各種アプリケーションの相互連携をベンダーフリーで実施する建物運用プラットフォームだ。同社は、スマートシティを建物の集合体と捉える。強みの建物OSを軸に、都市全体のマネジメントは不動産会社や交通機関などと連携し、スマートシティ開発や都市デジタルツインのサービス開発を強化する。

図17:清水建設の建物OS「DX-CORE」 図17:清水建設の建物OS「DX-CORE」[クリックして拡大] 出所:清水建設

生成AIを活用した都市のAR観光案内

 清水建設は、アップフロンティアとARグラスで豊洲の都市探索ができる「豊洲Diorama Vision」を共同開発している。ARグラスをつけて豊洲を探索する中で、生成AIを搭載した観光案内ロボットが観光コースや、スポットを周るルート、移動手段や時間をレコメンドし、コースの特徴を音声で案内してくれる。

 都市OSとも連携しており、リアルタイムでの情報の更新が可能だ。今後都市の領域においても、3Dによる可視化と、自然言語によるパーソナライズ化されたコミュニケーションを実現する生成AIの組み合わせは広がっていくことが想定される。

図18:豊洲Diorama Vision/生成AI搭載観光ロボットによるAR案内 図18:豊洲Diorama Vision/生成AI搭載観光ロボットによるAR案内[クリックして拡大] 出所:清水建設

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筆者紹介

小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授

 日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。

(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援

「メタ産業革命」(日経BP)

 専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

 近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

  • 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp

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