今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第4回で取り上げるのは「オープンコレクタ」だ。
本連載「今岡通博の俺流!組み込み用語解説」の第2回と第3回では、それぞれトランジスタとプルアップ抵抗についてお話ししました。
実はこれらの記事は、今回のテーマである「オープンコレクタ」の布石だったのです。オープンコレクタが使えるようになると、マイコンなどから外部機器を制御したり、また逆にマイコンの入力端子に外部機器からの出力を接続したりすることが可能になります。なぜかというと、外部機器の出力電圧がマイコン入力端子の耐圧を上回る場合、マイコンの入力回路が損傷する恐れがあるからです。何らかの方法で外部機器の出力電圧をマイコンの入力端子の耐圧内に収める必要があります。
本連載はIT業界などから新たに組み込み業界に関わるようになった方をメインの読者と想定しています。PCやネットワークあるいはサーバとのやりとりのみで完結するITシステムとは異なり、組み込み機器の開発ではセンサーや外部機器との連携が必須となってきます。そのような局面では、今回取り上げるオープンコレクタが大活躍します。
なお、以前の用語集のシリーズで解説した内容についてはこの記事では割愛することがありますので、それらについては過去記事を参照してください。
図1はマイコンの出力端子からの信号で外部機器を制御するための回路です。
オープンコレクタの典型的な回路になっています。回路の特徴としては、トランジスタ(TR)の3つの電極であるエミッタ(E)、ベース(B)、コレクタ(C)のうち、コレクタに何にも接続されずにそのまま出力となっている点が挙げられます。
マイコンの出力端子が低電位側の場合、出力はどこにもつながっていないオープンの状態となります。別の言い方をすると出力は高インピーダンス状態となり、コレクタとグランド間の抵抗値はとても大きい状態となります。
また、マイコンの出力端子が高電位側になりベースからエミッタに電流が流れると、コレクタがエミッタと導通し出力はグランドに短絡します。オープンコレクタの出力回路の役割はここまでで、この出力の扱いはこれを受け取った後続の回路に任されます。
ですから、この出力を受ける機器側で、抵抗(R2)により適切な電圧にプルアップします。たとえオープンコレクタのドライブ側(出力側)の電圧が5Vであっても、それを受ける側の回路の電圧が3.3Vが適しているのであればその電圧でプルアップします。ただし、ドライブ側の回路と受ける回路とではグランドは共通にする必要があります。
ここでプルアップする抵抗の値について少し言及しておきましょう。ドライブ側のトランジスタのコレクタからエミッタに流せる電流の最大値までの制限とはなりますが、ドライブ側の出力と受け側の回路の入力までの距離が長くなれば、途中ノイズが混入する可能性があるので、プルアップ抵抗の値は小さめに設定します。
ただそこにはトレードオフが発生し、抵抗値を小さくするとその分ドライブ電流は大きくなりますので、スイッチングスピードは遅くなり、通信速度も遅くなります。逆に、スイッチングスピードを速くしたい場合には、ドライブ側と受け側の回路の距離は短くして、プルアップ抵抗の値を大きくすることで可能になります。そこは回路設計の腕が試されるところでもあります。エレクトロニクス技術者にとって、ノイズ対策は最もアナログ系の経験が試される試練の一つと言っていいでしょう。
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